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Change the concept新規バイオマーカーと日常診療

アミロイドPETやタウPETなど近年登場したバイオマーカーは、日常臨床の現場とはまだ縁遠いものに思えるかもしれない。
島田先生の話を聞くと、それが間違った認識であることがわかる。

Shimada Hitoshi
島田 斉 先生

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構
放射線医学総合研究所
脳機能イメージング研究部 主幹研究員

取材:2019年8月26日 京成ホテルミラマーレ(千葉市)

用語の変遷と疾患概念の変化

まず用語の定義について伺いたいのですが、日本では「アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)」と言ったり、「アルツハイマー型認知症」と言ったりします。また「アルツハイマー型認知症」は「Alzheimer-Type-Dementia」などと英語表記され、「ATD」あるいはまぎらわしいことにアルツハイマー病と同じ「AD」と略されることがあります。用語が混在するなか、それぞれの意味や使い方をどのように整理すればよいのでしょうか。

かつては若年型(early onset)のアルツハイマー病と晩発型(late onset)のアルツハイマー病では病理や病態が違うだろうと考えられていました。そこでearly onsetをアルツハイマー病、late onsetをアルツハイマー型老年認知症(senile dementia of Alzheimer type:SDAT)と呼び分け、両者を合わせてアルツハイマー型認知症としていたわけです。

early onsetとlate onsetに違いがあるというのはある意味その通りなのですが、現時点の解釈では必ずしも異なる病理とは言い切れません。SDATといった用語が提唱された1990年代頃と今では、アルツハイマー病という病気の理解がまったく異なります。現在、国内で公式に統一された用語定義はなされていませんが、私自身は、アルツハイマー型認知症という用語はあまり使わず、アルツハイマー病、あるいはその略であるADと呼んでいます。

early onsetとlate onsetについて、今はどのように理解すればよいのでしょうか。

early onset ADとlate onset ADは何が違うかというと、early onsetでは比較的pureなAD病理を有します。一方、late onsetではAD以外の病理が併存することが多く、それにより病態が修飾されますし、early onsetに比べるとAD病理は軽度です。こうした違いはあるにしても、高齢者では混合病理を呈することが多いのは今では常識なので、わざわざ異なる用語を当てることには違和感があります。

もう一つ、臨床実地では単一の診断名を求める傾向がありますが、たとえば80歳台後半の認知症の患者さんでAD病理とα -シヌクレイン病理が併存しているものの、中核病理はADなのでSDATと診断したとします。その患者さんが幻視やパーキンソニズムを呈した場合に、「ああ、アルツハイマー型認知症でもこうした症状が出るのか」と解釈したとしたら、それは間違いですよね。おそらく混合病理が色濃く影響しており、そうした病態をSDATなどと言い始めるとおかしな話になってしまいます。単純に年齢だけで分けるような用語はもう時代に即しません。

私は、「アミロイドβ(Aβ)の蓄積と神経原線維変化(NFT)の形成に特徴付けられる“アルツハイマー病スペクトラム”の病理変化を有するものをアルツハイマー病と呼ぶ」という理解でいいと思います。そのうえで個々の患者さんにおいて、どのような病理がどの程度強く病態に影響しているのかをみていかないと、今後の議論は成り立たないのではないでしょうか。

“何々型認知症”といった枠にくくって終わりではなく、病態の背景にあるものを柔軟に、詳細に検討していくということですね。

一連のスペクトラム、グラデーションのある病理変化というものを意識することが大切です。臨床実地の先生方に、バイオマーカーによる知見などを踏まえてお話させていただく際に用語として使うとすれば、“AD spectrum patient”、“ADスペクトラムにある患者さん”ということになるでしょうか。

一方、個々の患者さんやご家族に対して説明する場合は、アルツハイマー病による認知症であればAD、MCIであればMCI due to ADでいいと私は思います。

バイオマーカーの活用でわかる “誤診のツボ”

実臨床では、アミロイドPETなどによる脳病態の客観的評価は行わず、主に臨床徴候に基づいてADと診断しています。

実臨床においては、PETや髄液検査のような先進的バイオマーカーは必須ではないと私は思っています。ADが疑われるすべての患者さんにPETや髄液検査を行うのは、侵襲性の観点からも、経済性の観点からも、時間的な観点からも現実的ではありません。われわれにしても全例にアミロイドPETを施行しているわけではないのです。ただ、アミロイドPETを用いない場合にも、アミロイドPETを使うことで得た知見が役に立っています。たとえばわれわれは、“誤診のツボ”というものがわかっています。

従来標準的に用いられてきたAD臨床診断基準を用いてADと診断された204例の剖検による検討では、病理所見との一致率は87.6%であったと報告されています1)。なぜ、臨床診断と病理診断はしばしば乖離するのでしょう。もちろん私も誤診します。この10年ほど、臨床的にADと診断したが、アミロイドPETを撮ると陰性だったという症例を経験してきました。そのような経験から、誤診例の特徴というか、「こういう臨床的特徴のある患者さんは、ADに思えてもおそらくAD病理を持っていない」という勘所がつかめてきたのです。最新の技術をもって明らかになったそのような知見は、必ずしも最新の技術を駆使し得る環境でないと生かせないというものではありません。それが私の強調したい点です。

具体的にはどのような特徴に着目すればよいのでしょうか。

ADと間違えられやすい認知症原因疾患に、Aβ沈着が起こらなくても側頭葉内側を中心にタウが蓄積し、脳萎縮がみられる神経原線維変化型老年期認知症や嗜銀顆粒性認知症などの高齢者タウオパチーがあります。神経原線維変化型老年期認知症は、病態的にはPART(primary age-related tauopathy)が進行したものです。

PARTの特徴としては、late onsetで、海馬が痩せており、もの忘れが非常に顕著です2)。典型例ではMMSEでいうと遅延再生が強く障害されているにもかかわらず、他のドメインは正常で、トータル26~27点ほどになります。これはADとしては尋常ではありませんよ。ADの場合は、記憶障害が強ければ見当識や構成能力なども障害されるのが一般的なパターンですから。

遅延再生のみが低下している人たちをPARTではないかと疑い、PETや髄液検査を行うと、アミロイド陰性となる方がとても多いです。こうしたパターン認識が一度できると、アミロイドPETを使わなくても正診率を上げることができるわけです。

今のお話とは逆に、「遅延再生が低下していればAD」という認識がありました。

それは“間違った方程式”です。「傍海馬領域が萎縮していればAD」「ADパターンの脳血流低下があればAD」といった単純な方程式に従えば正しい診断ができるかというと、当然ながら乖離する症例が出てきます。「近時記憶が障害されていればAD」というのもそうした間違った方程式の一つです。遅延再生が悪い場合には二つのパラメータを考慮しなければなりません。一つは年齢で、初発年齢が高い場合はPARTの可能性が出てきます。もう一つは遅延再生以外のドメインを含む全体のバランスです。

バイオマーカーの使用により、この5年10年で認知症の理解は大きく深化しているので、古い方程式はブラッシュアップすることが必要です。

バイオマーカーの将来性と限界“関西人の診断基準”

実際に個々の症例には使われなくても、進歩したバイオマーカーが日常臨床にメリットをもたらすことがわかりました。

バイオマーカーというと最近は髄液やPETの話になりますが、そもそもCTやMRIもバイオマーカーなわけです。1980年代に、CTで見るとAD患者の脳が萎縮しており、その程度が重症例では強いと発表されたのがバイオマーカーの走りといえるでしょう。それまでは、理由はわからないが記憶障害が強い人がいる、という程度の認識だったのが、CTの普及によって日常的に海馬の萎縮を捉えられるようになりました。当時の臨床医の先生方にとって、ADを診断するうえで大きな自信になったと思います。

多発性硬化症についても同様です。若い女性に多く、いきなり手足に力が入らなくなる。血液検査やCTでは異常が認められないため、ヒステリーだろうと考えられていたのが、MRIの登場によって白質病変が検出されました。そうなると自信を持って器質性の疾患と言えるわけです。

また、大脳皮質基底核症候群(CBS)は背景病理が非常に多彩で、ADスペクトラムの一部なのか、non-ADタウオパチーなのか、それ以外の病理なのか、臨床像から見分けることは困難でした。なぜかというと一つには、剖検を待たないと答え(病理)がわからないため、前方視的解析が難しかったからです。しかしアミロイドPETやタウPETによって生前に病理学的分類が可能になったことで、近年はCBSの背景病理による脳萎縮のパターンや臨床症状の特徴などについて多くの報告が上げられています3)(参考:図1)。

少し前まで、画像技術に関してのホットトピックはnon-ADタウオパチーでした。しかし、2019年7月にロサンゼルスで開催されたアルツハイマー病協会国際会議のイメージングセッションではnon-AD、non-タウオパチーが注目を集めていました(参考:図2)。アミロイドがネガティブ(非AD病理変化)、かつタウもネガティブ(非タウオパチー)。しかし脳は萎縮し、認知症を呈している。おそらくその多くはLATE(limbic-predominant age-related TDP-43 encephalopathy)と呼ばれるTDP-43プロテイノパチーなどなのでしょうが、アミロイドPETやタウPETの登場によって初めてそのような病態が臨床的に認知され、生前の脳萎縮のパターンや脳循環代謝異常のパターンなどが盛んに研究されています。そのように、新しいバイオマーカーが出てくることで見えてくる世界というものが必ずあるのです。

バイオマーカーと臨床症状との関連が注目されている一方、バイオマーカーと重症度との相関についてはいかがでしょうか。

個人内における重症度の変化の指標なのか、絶対的な指標なのかによって話が違ってきます。個人内の指標であればCTやMRIでいいわけです。認知機能障害の進行と脳萎縮はパラレルの関係にありますから。しかしインターサブジェクトとなると、脳萎縮が強い人は認知機能障害もより重度かというとそうではありません。つまり構造画像による脳容積評価は重症度の絶対的指標にはならないのです。

ではアミロイドPETはどうか。Aβの集積はMCIの段階でプラトーに達している4)ので、やはりADの重症度とはさほど相関しないことが知られています5)

一方、われわれは、11C-PPB3を用いたタウPET研究により、認知機能障害の重症度が11C-PPB3集積の程度と部位に関連することを確認しています6)。したがってタウはADの重症度の客観的バイオマーカーになり得るわけです。

また、脳脊髄液および血中のNFL(Neurofilament light chain)も、神経障害の有望なバイオマーカーとして期待されています。

島田先生はよく、バイオマーカーの意義と同時に限界も知らなくてはいけないと話されています。

どのようなバイオマーカーも検査指標であり、検査である限りは感度・特異度に必ず限界があります。たとえば、MCIの段階では3人に1人はMRIで異常が出ないと報告されています(図37)。脳血流SPECTや髄液バイオマーカーも感度100%には至りません。アルツハイマー病ではなくても、加齢に伴いアミロイドPET陽性になることもあるわけです。理由の一つは多様性です。

少し冗談めいた話になりますが、“関西人の診断基準”をつくることはできるでしょうか。「週に3回以上、粉物を食べる」「吉本新喜劇の芸人を5人以上言える」「目の前でボケられると5秒以内に突っ込みを返す」といった質問項目を10個設け、4個以上該当すれば“possible 関西人”、6個以上なら“probable 関西人”とするとします。でも、先祖代々大阪住民であっても1個も該当しない人もいれば、関西に縁もゆかりもないのに10個すべてがYESの人もいるかもしれません。それが多様性というものです。健康な人でもそれだけ多様なのに、病気の人が均一であるわけがない。

多様な疾患の、グラデーションを持った変化の中で線引きをする以上、必ずアウトライヤー(外れ値)が出てきてしまいます。このことをみなさんよくご存知のはずなのに、アミロイドPETや髄液バイオマーカーとなると絶対的に信頼してしまう。それはとても危険なことだと思います。

そうした中、血中のAβあるいはタウといったバイオマーカーの開発も進められています。

良い面と危うい面があります。血液バイオマーカーが嘱望されているのは、侵襲性が低く、安価でより多くの患者さんに使用できるからであって、PETや髄液検査よりも感度・特異度を上げることを目指して開発されているわけではありません。プライマリーケアでも実用可能な簡便で侵襲性の低い検査が現実味を帯びつつあるからこそ、バイオマーカーにも限界があることを、かかりつけ医の先生方にも知っていただく必要があります。

どんなに優れたツールであっても、それを使って判断するのは臨床医であり、ツール任せにはできません。臨床医としての責任を認識しつつ、「バイオマーカーから学ぶことも多い」という謙虚な姿勢で臨む。そのようなスタンスが求められています。

1)Fillenbaum GG et al.: Alzheimers Dement. 2008; 4(2): 96-109
2)John F. Crary et al.: Acta Neuropathol. 2014; 128(6): 755-766
3)JB Parmera et al.: Dement Neuropsychol. 2016; 10(4): 267-275
4)Jack CR Jr et al.: Neurology. 2013; 80(10): 890-896
5)Villemagne VL et al.: Semin Nucl Med. 2017; 47(1): 75-88
6)Shimada H et al.: Alzheimers Dement (Amst). 2016; 22(6): 11-20
7)Morinaga A et al.: Dement Geriatr Cogn Disord. 2010; 30(4): 285-292