砂川市立病院の認知症疾患医療センター(以下、同センター)では、医師が初回の診察に1時間、診断・告知の診察に30分~1時間をかけている。後者の内容は、①心理検査の結果とMRI・SPECT所見の説明、②診断名の説明、③リーフレットを用いた治療薬の説明、④認知症療養計画書の発行、⑤生活上での留意点の説明・介護保険利用の勧めなどである。
同センター長で認知症専門医の内海久美子先生は、「ご本人とご家族にとって、診断・告知は認知症とともに生きるスタートラインです。特に早期で来られた方ほど動揺が大きいので、今後の生活に対してご本人とご家族が抱える不安や、たくさんの疑問により時間をかけて耳を傾け、しっかりお答えするようにしています」と話す。
説明の内容や仕方は、病気の種類や進行度、そして本人や家族がどのような不安を持っているかによって異なる。たとえば、内海先生は認知症と診断した本人・家族からよく、「いつからオムツになるんですか?」「徘徊はいつごろから始まるんですか?」といった質問を受けるそうだ。進行が緩やかなアルツハイマー型認知症で、かつ軽度の場合、内海先生はこのように答えることが多いという。「経過には個人差がありますが、今の軽度の段階から、これまでできていた家事や一人での外出が難しくなってしまう中等度に進むまで約5年というスパンです。数年でアッという間に進むわけではありません。私の患者さんにも、軽度で受診されてから5年ほど過ぎ、中等度に進んでいる方々がいますが、その段階でも一人でトイレに行かれますし、お洋服も着られます。同じことを聞く回数が増え、料理や買い物をできなくなることはあるかもしれませんが、おそらく自分のことは、ほんのわずかな声掛けや手伝いがあれば自分でできると思いますよ」
告知する側とされる側の心理は「合わせ鏡」だと内海先生は言う。
「たとえばアルツハイマー病と告げる際に、医師が『とても深刻な疾患であることを伝えなければいけない。できるだけ傷つけないようにするには、どう話せばいいのだろう』と構え過ぎると、その緊張が相手に伝わり、『何かたいへんな病気になったんだ』と非常に悲観的に受け止めてしまいます。逆に医師が、『そんなに早く進行するわけではない。まだまだできることは多い』という認識で話をすれば、ポジティブな感情がご本人やご家族にも伝わり、これからのことをより前向きに考えられるのではないでしょうか」
