Medical.eisai.jp 医療関係者の皆様へ Medical.eisai.jp 医療関係者の皆様へ

メニュー メニュー

レビー小体型認知症prodromal DLBを捉える

2017年に改訂されたレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies: DLB)の新診断基準は、認知症診療が行われる一般診療所の医療現場でも、徐々に浸透してきている。認知機能障害のみならず、運動障害、睡眠障害、覚醒度の不安定性や自律神経症状、さまざまな精神症状が出現する特徴のあるDLBだが、これら多彩な症状の変遷に関して、より早期の段階で気付き、より適切な対応をすることが近年強調されつつある。笠貫先生に、前駆期状態にあるDLB(prodromal DLB)をどのように解釈し、いかに診断するかを聴いた。

Kasanuki Koji
笠貫 浩史 先生

順天堂大学医学部 精神医学講座 准教授
順天堂東京江東高齢者医療センター
メンタルクリニック

取材:2019年12月13日 医療法人社団 慶成会 青梅慶友病院(東京)

Prodromal DLBをめぐる3つの臨床亜型

まず、12年ぶりに改訂されたDLB臨床診断基準のポイントをまず教えてください。

2017年に改訂されたDLB新診断基準(2017年版)のポイントのひとつは、旧版(2005年版)では、よく認められる臨床症候と検査所見が「支持的特徴」として混在したかたちで列挙されていたことを顧みて、新診断基準では「バイオマーカー」が、臨床症候とは別に項目立てされた、という変更点が挙げられます。さらに診断基準上の重みづけの観点から、バイオマーカーは「指標的バイオマーカー」と「支持的バイオマーカー」の二種類に分類されました。診断基準中に、いわば数種類のバイオマーカーが「格付け」された格好です。こうした変更に関して本邦が世界にもたらした影響は非常に大きく、特にMIBG心筋シンチグラフィ所見の重要性を示された山田正仁先生(金沢大学)、織茂智之先生(関東中央病院)らの一連の研究成果は国際的に大きなインパクトを持って受け入れられました。旧版(2005年版)は初版(1996年版)よりも精度がアップしたものであり、臨床現場でも汎用されてきましたが1)、2017年版ではこれをさらに上回る精度でDLBを診断可能になることが期待されています。その一方で、「より早期の状態に在るDLBの一群─Possible、Probable DLBの診断基準は満たさないが、将来的にそれらの診断基準を満たす可能性が高い状態―」、すなわち前駆期状態に在るDLB(prodromal DLB)の診断については、別途に診断基準を策定することの必要性が指摘されてきています。

“Prodromal DLB”の診断基準はどのようなものになるのでしょう。

私は診断基準策定のメンバーに加わっていないので、現時点(取材:2019年12月)でその全貌は不明ですが、大前提として「認知症状態には無いけれども、病態としてDLBを疑わせる群」を合理的に整理する、というコンセプトに則った診断基準になるはずです。これまでのDLB診断基準策定を主導してきている英国Newcastle大学のMcKeithらは、2016年にprodromal DLBの臨床表現型として、3つの臨床亜型を提案しています2)。具体的には、①認知機能障害の低下が前景を占める形式で発症するが、認知機能についてはMCIの段階にとどまっている「DLB-MCI onset」(DLB-MCI)、②せん妄が前景に立つ形式で発症し、その後DLBとしての病像が明確になる「DLB-delirium onset」(DLB-del)、③抑うつなどの精神症状が顕著に発症し、やがてDLBとしての臨床的特徴を整えていく「DLB-psychiatric onset」(DLB-psych)の3型です。

DLB-MCIについてはどのような認知機能障害の特徴があるのでしょう。

従来から指摘されているように、アルツハイマー病のMCI状態が健忘型MCIを呈するのとは対照的に、DLBの前駆期状態では非健忘型MCIを示すことが特徴となります3)。低下を認めやすい認知機能は、視空間認知、注意、遂行機能です。視空間認知障害については、患者さんご自身やご家族が、日常生活のなかで気づいたり、端的に指摘をすることは少し難しいかもしれません。診察室では比較的簡易な神経心理検査を用いてその特徴を見出すことができます。Mini-mental state examination (MMSE)の五角形模写や、MoCA-J(日本語版Montreal CognitiveAssessment)に含まれる立方体や時計描画課題(Clock Drawing Test)などを行うことで視空間認知障害の存在を推察できます。

視空間認知機能と関連して、錯知覚について、東北大学で開発されたパレイドリアテストも私たちは適宜用いています。DLB-MCIが疑わしい患者さんでは、錯視が多く認められる一方で、記憶機能の問題は目立たない、という方が確かにおられます。

DLB-MCIを診断するうえで、上記のように短時間で施行可能な神経心理検査を適宜組み合わせることで、記憶以外の認知機能障害を比較的容易に把握することができます。さらに日常診療では補助的な問診スクリーニングとして、「レビー小体病」(パーキンソン病およびレビー小体型認知症)の前駆症状として重要であることがわかっている、いくつかの症状を確認することが有用です。具体的には①立ちくらみ②便秘③レム睡眠行動障害を疑わせる睡眠時の症状④抑うつ症状などです。これらの症状は認知症の生じる数年~10年程度前に出現することが多いため、手がかりとして重要です。DLB-MCIを含むprodromal DLBの患者さんでは、これらの前駆症状の複数項目が該当する方が実際に多くおられます。私たちは現在、物忘れ外来初診時にスクリーニング質問紙“DCARD Questionnaire”(図1)を用いて、レビー小体病の前駆症状を評価しています。私たちの施設では、もの忘れ外来を初診された方のうち、これらの項目が4つ以上当てはまる方が約15%程度おられることが分かりました4)

DLB-del、DLB-psychについてはどのように考えたらいいのでしょうか。

せん妄、精神症状優位の類型についてはDLB-MCIよりも知見が限られており、これから整理・検討を続けていくべき領域であると考えています。前駆期状態としてのせん妄(DLB-del)については、過活動型と低活動型で異なる特徴があるのか、比較が必須でしょう。精神症状優位の類型(DLB-psych)については、従来から指摘のある、「抑うつ」が後年になって認知症症状が前景化するDLBのケースのみならず、想定されている精神症状の種類は多岐に渡りますから、各ケースを画像バイオマーカー等の所見と組み合わせながら丁寧に診立てていく必要があると考えています。

DLB-delについては、韓国から術後せん妄とDLBについての興味深い先行研究が報告されています5)。一般的にはDLB診療と一般外科手術、というと関係性はあまり深くないように認識されていると思います。しかし、この研究では胃摘出術を受けた患者さんのうち、集中治療室でせん妄が出現した群(せん妄群)と出現しなかった群(非せん妄群)とを分割し、胃の神経叢についてα-シヌクレイン染色を施しました。α-シヌクレインはレビー小体やレビー関連神経突起を構成する蛋白です。検討の結果、せん妄群では非せん妄群と比べて優位に多くα-シヌクレインが蓄積しており、せん妄を起こしやすい個体では潜行性にレビー関連病理が進展していることを示唆しました。臨床経過と病理所見を照らし合わせるこうした検討は、prodromal DLBの全貌を明らかにしていくうえで貴重な証左になると思います。

Prodromal DLBとドパミントランスポーターSEPCTの関係

Prodromal DLBの診断にあたって画像バイオマーカーをどのように利用されていますか。

検査の持つ意味をまず正しく理解し、何の目的で各検査を選択するのかを医師側が十分に自覚していることが必要だと思います。各種の画像バイオマーカーがDLB診断では有用ですが、診断上、疾患特異性が最も高い画像バイオマーカーはMIBG心筋シンチグラフィです。レビー小体病の病態を確認する目的で1種類の画像モダリティを選択するのであれば、私たちはMIBG心筋シンチグラフィを優先しています。Prodromal DLBについても、基本的にその考え方に変わりはありません。ただし、MIBG心筋シンチグラフィは心臓交感神経の脱神経程度を調べる検査ですから、脳内の病態進展の様子をさらに推察する目的では、ドパミントランスポーターSPECT(DaTスキャン)や脳血流SPECTを複合的に用いて総合判断することが重要となります。

DaTスキャンに関して、私たちが以前に行った検討をご紹介します6)。DLBの前駆期状態の検出を目的として、prodromal DLB群(n=20)、probable DLB群(n=18)、probable AD群(n=10)の画像上の特徴と臨床上のプロフィールを比較検討しました。Prodromal DLB群は、MMSEが27点以上で、前駆症状が複数あり、FDG-PETで後頭葉一次視覚野領域の低代謝が顕著な方を対象としました。

各群の典型的なDaTスキャン画像を示します(図2)。Probable DLBでは明らかに線条体領域の取り込み低下が認められるのに対し、probable ADでは低下はみられずカンマ型が保たれています。Prodromal DLBはその中間的な所見で、明らかに正常な状態とは異なっていました。

DaTスキャンでの取り込み低下は黒質線条体経路のシナプス前ドパミン障害を反映するため、臨床症状との対応関係については、パーキンソニズムとの相関が想定されます。実際、probable DLB群ではDaTスキャンのSBR(specific binding ratio)とUPDRS Part 3(Unified Parkinson's Disease Rating Scale Part 3)スコアが負の相関関係を示しました。一方、prodromal DLB群では両者に相関が認められず、興味深いことに、非運動症状である嗅覚障害およびレム睡眠行動障害の持続期間がSBRと負の相関を示しました。その解釈は単純ではありませんが、レビー関連病理の進展が一様でなく、病期によって多様性を示すことを想定するべきなのかもしれません。臨床的には、prodromal DLBを疑うケースでパーキンソニズム出現の時期や程度はさまざまです。自覚症状について詳しく尋ねると、少しだけ足が動かしづらい、時折階段でつまずく、足が吊るとことがあると言われる方がいらっしゃいます。こうした場合には検査の内容と目的をご本人とご家族に説明のうえ、レボドパの使用も視野に入れつつ、DaTスキャンを行い、黒質線条体経路の機能障害の有無を評価します。検査結果を見て、レボドパを少量ご処方すると、運動症状について「症状がとても楽になった」、とご本人の自覚症状が改善するケースもあります。

Prodromal DLBの診立てを行うことの意義は、診断をすることでその後の症状経過の見通しが立ち、ケアプラン立案や向後の不安への先手を打つ可能性が広がる点にあります。徒らに多くの検査を行うのではなく、ご本人・ご家族にprodromal DLBについての概要をご理解頂いたうえで、前駆症状の的確な把握をし、病状や経過、検査意義を踏まえて適宜に精密検査を選択していくことが大切だと考えています。

1)Rizzo G et al. J Neurol Neruosurg Psychiatry. 2018; 89: 358-366
2)McKeith IG et al.: J Geriatr Psychiatry Neurol. 2016; 29(5): 249-253
3)Ferman TJ et al. Neurology. 2013; 81: 2032-2038
4)笠貫浩史他.老年精神医学雑誌 30(増刊-2): 191. 2019.
5)Sunwoo MK, et al. Neurology. 2013; 80: 810-813.
6)Kasanuki K et al.: Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2017; 44(3): 358-365