薬を飲んでいるのに、毎日頭が痛い。近頃、そんな訴えをする患者さんが増えています。このような方は薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)が疑われます。
薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)(MOH:Medication Overuse Headache)は急性期治療薬を頻回服用することにより起こり、二次性頭痛に分類されます。患者さんは、服薬している薬が原因となり、頭痛が悪化している事実を正しく理解しておらず、頭痛が治らないとさらに市販薬や処方箋薬を服薬する傾向にあります。漫然とした急性期治療薬の処方を避けると同時に、患者さんへの正しい服薬指導が重要となります。
薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)(以下、MOH)に陥りやすい片頭痛は、中等度から重度の頭痛が繰り返し起こることにより、日常生活に支障をきたし寝込んでしまうなど、QOLが著しく低下する疾患です。そのため、痛みから逃れるために、また仕事や家事等の社会生活を行うため、早め早めに薬物を服薬する癖がついたり、服薬量が増えてしまうという傾向があります。
また、NSAIDsや市販の鎮痛薬は比較的入手が容易であることもその一因と考えられます。
MOHの有病率は、疑い例も含めると約1%と言われており、頭痛の中では緊張型頭痛、片頭痛に次いで3番目に多い疾患です。頭痛を主訴に神経内科を受診する患者の 5~10%がMOHに該当するとの報告もあり、頭痛外来においてはその数はさらに多いと言われています。
男女比は 1:1.35 で女性に起こりやすいことがわかっています。また、成人だけでなく小児や思春期においても見られますが、特に中年女性においてその罹患率が高い傾向にあります。
乱用の原因となる薬物は、NSAIDs等の鎮痛薬、エルゴタミン製剤、トリプタン製剤などが挙げられます。最も多いのは市販の鎮痛薬を乱用しているケースですが、近年はトリプタン製剤の処方が増えていることに伴い、トリプタンによるMOHの発症も報告されています。 1)
MOHに至る平均投与回数、時間 2)
- トリプタン
- 18回/月 1.7年
- エルゴタミン製剤
- 37回/月 2.7年
- 鎮痛剤
- 114回/月 4.8年
製剤別にみると、トリプタン製剤はエルゴタミン製剤や鎮痛薬に比べて、より少ない服薬回数でMOHになる傾向があるとの報告があります。
また一方で、起因薬物を中止した後に2~10日間続くとされる反跳頭痛は、他剤に比べトリプタンによるMOHで早く消失する傾向にあると言われています。
いずれにしても、急性期治療薬の服薬回数が頻回にならないよう(10回以内/月)、適切にコントロールし、MOHに陥らないようにすることが重要です。
MOHは片頭痛患者もしくは緊張型頭痛患者、あるいはその合併例に多く見られ、群発頭痛患者に起こることは稀といわれています。
MOHは薬物の過剰服用が引き金となり、痛みに対する感受性が過敏になる、つまり痛みの閾値が下がってしまうことが原因と考えられています。
また、慢性関節リウマチや腰痛などの疾患に対して、長期に渡って大量の鎮痛薬を服用していてもMOHが問題となることは極めて稀なことから、片頭痛や緊張型頭痛の病態そのものがMOHの発生要因に寄与している可能性が示唆されています。 1)
MOHの診断の際には、薬剤の使用状況を丁寧に聞きだすことが必要です。いつごろから何の薬剤を何錠程度服薬しており、その期間はどのくらいなのか、また、MOHの症状が出る前の元々の頭痛はどんなものであったか、等を確認します。
薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)(MOH)の診断基準 3)
- 以前から頭痛疾患をもつ患者において、頭痛は 1ヵ月に15日以上存在する
- 1種類以上の急性期または対症的頭痛治療薬を 3ヵ月を超えて定期的に乱用している
- ほかに最適な ICHD-3 の診断がない
エルゴタミン乱用頭痛
3ヵ月を超えて、1ヵ月に10日以上、定期的にエルゴタミンを摂取している
トリプタン乱用頭痛
3ヵ月を超えて、1ヵ月に10日以上、定期的に 1つ以上のトリプタンを摂取している(剤形は問わない)
単純鎮痛薬乱用頭痛
3ヵ月を超えて、1ヵ月に15日以上、単一の鎮痛薬を摂取している
オピオイド乱用頭痛
3ヵ月を超えて、1ヵ月に10日以上、定期的に 1つ以上のオピオイドを摂取している
複合鎮痛薬乱用頭痛
3ヵ月を超えて、1ヵ月に10日以上、定期的に 1つ以上の複合鎮痛薬を摂取している
治療の主となるのは、以下の 3 つです。 4)
- 原因薬物の中止
- 薬物中止後に起こる頭痛(反跳頭痛)に対する治療
- 予防薬の投与
まずは乱用の原因となった薬物を中止し、その後に起こった頭痛は別の治療薬で対処します。頭痛ダイアリーを記録し、頭痛が起こった日数、薬物使用日数を適切に把握すること、治療経過の観察を行うことも有効です。また、原因薬物を中止したときに起こる反跳頭痛に関する事前の説明や治療計画を丁寧に説明することで、患者自身の意識改革を促すことが治療の成功に大きく寄与します。
MOH治療の成功率は 70%程度といわれていますが、再発もしばしば認められます。治療終了後 1年以内の再発が最も多く、その後、再発リスクは減少していくため、患者教育の徹底と治療終了後も継続したフォローが再発防止の対策となります。
治療が成功するか否かは、患者さんの意識改革や忍耐力に加え、それを引き上げるように働きかける医師の役割も大きいと考えられます。
参考文献
- 1)
- Dowson AJ, , et al. : Medication overuse headache in patients with primary headache disorders : epidemiology, management and pathogenesis. CNS Drugs 19 : 483-497, 2005.
- 2)
- Limmroth V, et al. : Features of medication overuse headache following overuse of different acute headache drugs. Neurology 59 : 1011-1014, 2002.
- 3)
- 日本頭痛学会:P106-109 , 8. 物質またはその離脱による頭痛 , 国際頭痛分類第3版beta版 , 医学書院 , 2014.
- 4)
- Diener H-C, et al. : Medication-overuse headache : a worldwide problem. Lancer Neurol : 475-483, 2004.