作用機序

タズベリク錠200mg(タゼメトスタット Tazemetostat)
抗悪性腫瘍剤(EZH2阻害剤) / タゼメトスタット臭化水素酸塩

タゼメトスタットは、ヒストン等のメチル基転移酵素であるEZH2の酵素活性に対する阻害作用を有する低分子化合物です。タゼメトスタットは、変異型EZH2(Y646F等)のメチル化活性を阻害することで、ヒストンH3の27番目のリジン残基等のメチル化を阻害し、細胞周期停止及びアポトーシス誘導を生じさせることにより、腫瘍増殖抑制作用を示すと推測されています1)。しかし、詳細な作用機序は解明されていません。

遺伝子発現のエピジェネティクス制御において、クロマチンにおけるヒストン修飾(メチル化、アセチル化、ユビキチン化、リン酸化等)は様々ながんの発症や悪性化に関与しています。このうち、ヒストンH3の27番目のリジン残基(H3K27)のトリメチル化(me3)は、造血幹細胞など多くの幹細胞やがん細胞のクロマチンにおいて亢進し、細胞分化にかかわる遺伝子あるいはがん遺伝子の発現制御、細胞増殖に関与しています2,3)。EZH2はH3K27を特異基質とするヒストンメチル基転移酵素(HMT)であり、ポリコーム抑制複合体2(PRC2)の活性サブユニットとして、H3K27のモノメチル化、ジメチル化及びトリメチル化を触媒します2,3)

FLは、胚中心芽細胞及び胚中心細胞を起源としています。胚中心芽細胞が胚中心細胞になる過程で、免疫グロブリン遺伝子の可変領域は繰り返し体細胞突然変異を起こして多様性を獲得しますが、この中でEZH2による遺伝子発現のエピジェネティクス制御は、胚中心(芽)細胞の増殖と突然変異の厳密な制御及びがん化防止に重要な役割を担っています24-26)。EZH2の発現レベルは、B細胞の活性化に伴って増加し、胚中心芽細胞で最大となり、EZH2によって生じるH3K27me3レベルの亢進は、細胞分化に関係する転写因子や細胞周期阻害因子等の遺伝子発現を抑制し、分化抑制・増殖促進の状態を保ちます。その後、胚中心細胞の成熟化にむけてEZH2発現は減少し、細胞分化が進捗します。一方、この過程におけるEZH2の制御が外れてH3K27me3が恒常的に高レベルになると、分化関連因子や細胞周期阻害因子の抑制が継続され、FL発症の一因になると考えられています27-29)。FLではEZH2のSETドメイン領域での遺伝子変異が報告されており、EZH2活性の亢進により高レベルのH3K27me3が生成されて、変異型EZH2に依存した腫瘍増殖をおこします30-33)。また、変異型EZH2は組織適合性抗原クラスⅠとクラスⅡの発現を抑制し、宿主からの免疫攻撃を回避することによって腫瘍を悪性化するということも報告されています34)

作用機序

<参照文献>
1)社内資料:非臨床試験:作用機序(CTD 2.6.2.2.1) [TAZ-0015
2) Margueron R, Reinberg D.: Nature. 2011; 469: 343-349 [TAZ-0019]
3)Copeland RA.: Clin Cancer Res. 2013; 19: 6344-6350 [TAZ-0020]
24)Velichutina I, et al.: Blood. 2010; 116: 5247-5255 [TAZ-0021]
25)Green MR.: Blood. 2018; 13122: 595-604 [TAZ-0022]
26)Mlynarczyk C, et al.: Immunol Rev. 2019; 288: 214-239 [TAZ-0023]
27)Béguelin W, et al.: Cancer Cell. 2013; 23: 677-692 [TAZ-0024]
28)Caganova M et al.: J Clin Invest. 2013; 123: 5009-5022 [TAZ-0025]
29)Béguelin W, et al.: Cancer Cell. 2016; 30: 197-213 [TAZ-0026]
30)Morin RD, et al.: Nat Genet. 2010; 42: 181-185 [TAZ-0027]
31)Sneeringer CJ, et al.: Proc Natl Acad Sci U S A. 2010; 107: 20980-20985 [TAZ-0028]
32)Yap DB, et al.: Blood. 2011; 117: 2451-2459 [TAZ-0029]
33)Bödör C, et al.: Blood. 2013; 122: 3165-3168 [TAZ-0030]
34)Ennishi D, et al.: Cancer Discov. 2019; 9: 546-563 [TAZ-0031]