以前、胸にしこりができて、乳がんかもしれないと思って受診したことがありました。結局はがんではなく、ホルモンの影響によるものだったのですが、そのときに医師が「よく気がついたね」と褒めてくれたんです。「こんなに小さいしこりなのに」って。認知症の場合は、自分で早く気づいても褒めてもらえませんよね。
私は2007年に、朝食べたコーヒーゼリーのことをすっかり忘れていたことがきっかけで、脳神経内科を受診しました。その1年ほど前から、本の内容や登場人物が覚えられなかったり、半年前からは約束の時間を忘れたり、日々の生活の中で「何かおかしい」というぼんやりとした違和感はありました。
脳神経内科では、「若年性アルツハイマー病と思われる」と診断されました。でも治療は行わず、1年間様子をみることになりました。私の場合、1年くらいではそれほど進行しなかったように感じたので、経過観察も「まあいいかな」とは思いました。1年後、再検査の際に、生活のしづらさや不安な思いを訴えたのですが、医師は「しっかりしているから大丈夫。まだ若いのに薬を飲んでどうするの」と言うばかりです。何だか取り合ってもらえないような印象を受けました。
再検査をして大きな変化がなかったときでも、「ほら大丈夫でしょう」という対応ではなく、「良かったですね。でも今、心配なことはない?」「生活のしづらさや、仕事のやりづらさは深まっていない?」と気にかけてほしいですね。そうすると自分が病院に受け入れられた感じがして、1年後にまた来ようという気持ちになれます。
もっとも、医師が初期の認知症と確定診断することに躊躇せざるを得ない面もあると思います。認知症の診断イコール絶望という情報しか知らない先生方も多いのでしょうから。でも、早く診断してもらうことで、家族とともに病気と向き合い、周りの人にも自分から病気のことを話して理解してもらい、それまでの暮らしを継続できる可能性があることを知ってほしいと思います。そして先生方のほうから、「こういう生活の工夫をしているご本人さんもいると聞いたよ」といったポジティブな情報を伝えてほしいですね。医師にこそあきらめてほしくない。認知症の初期診断が、絶望ではなく、認知症とともに希望をもって生きる新たな一歩になればいいなあと思います。