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認知症の人と家族の会早期診断の“その後のフォロー”と
望まれる社会

Suzuki Morio
鈴木 森夫 さん

公益社団法人 認知症の人と家族の会
代表理事

1952年、愛知県大府市生まれ。精神保健福祉士。父は結核療養所(国立療養所中部病院、現・国立長寿医療研究センター)の初代ソーシャルワーカー。敷地内の職員官舎で育ち、患者も職員も家族同然だった。1974年、愛知県立大学卒業後、愛知県や石川県内の病院でソーシャルワーカーとして、また介護保険施行後はケアマネジャーとして働く。1984年、『呆け老人をかかえる家族の会』(現・認知症の人と家族の会)石川県支部結成に参画し、以後事務局長、世話人として活動。2015年、『認知症の人と家族の会』理事となり、2017年6月から代表理事に就任。

取材:2018年8月9日 認知症の人と家族の会 本部(京都)

早期発見⇒自ら声を上げる当事者
⇒「ふつうの人」というイメージ

当会の創設者であり、37年間、代表理事を務めてこられた髙見国生さん(現顧問)から後任への就任を打診されたときは、かなり躊躇しました。

私は長年、病院のソーシャルワーカー(相談員)として認知症の方のご家族の相談を受けてきました。でも自分の家族を介護した経験はありません。その私が会の代表を引き受けていいのか、ずいぶん迷いました。ただ、当会では結成当初から医師や看護師など医療や介護の専門職が、認知症の方やご家族とともに活動を続けています。そうした専門職の今後の関わり方についても考えていってほしい、とのことでしたので、就任を決意しました。

私が当会に入会した1984年当時の社会は、認知症が医療や介護の対象であるという認識はまだ希薄でした。認知症の人がいることは身内の恥といった偏見もありました。病院や施設の相談窓口に家族が訪れるのは、認知症がかなり進み、家族だけではとても面倒がみられなくなってからでした。だから当時は、医療や介護の専門職でさえも、初期の認知症の人に出会う機会は少なかったと思います。認知症といえば重度の人、何もわからなくなった人、というイメージが世間一般にも専門職にも強かったのではないでしょうか。

そのような状況のもと、われわれ病院の相談員も、本人と向き合うというよりは、家族のたいへんな思いを受け入れることで精いっぱいでした。当会に入会し、活動を続けるなかで、“ご本人のことをしっかり理解し、対応すれば良い方向に向かう”ということを、ご家族と一緒に少しずつ勉強していった印象です。また、医療技術の進歩もあって早期に認知症と診断される方が増えたことで、認知症に対する世の中のイメージも徐々に変わっていきました。

インパクトが大きかったのは、2004年10月、当会主催により京都で開かれた国際アルツハイマー病協会の国際会議で、認知症の方が自らの体験や気持ちを発言したことです。それ以降、ご本人たちの思いを聞く機会が増え、世間一般の見方も「ふつうの人なんだ」というように変わってきています。

すでに認知症が進んでしまった方のご家族も、自ら発言する当事者の方々の姿を見て、「うちのお父さんはもう自分のことを話せないけれど、きっとあのころはこういう気持ちでいたのだろう」といった思いで目の前のご本人と向き合うのではないでしょうか。それはとても大きな変化だと思います。

職場や地域社会で
認知症の人が役割を担う時代へ

よく認知症の方から「診断されたときのショックは大きい。でも一方で、何かおかしいと悶々としていたのが病気だとわかってほっとした」という話を聞きます。本人の納得のため、さらには本人と家族の関係性が悪くなる前にともに病気を受け入れるためにも、認知症の早期診断は重要です。東京都支部の報告では、MCI段階での気づきの重要性を訴える方もいらっしゃいました。問題はその後です。本人と家族を孤立させないためには、専門職によるフォローに加え、「自分たちだけではない」と思える仲間、つらさや希望、生活の知恵などを共有できる仲間が欠かせません。認知症の初期に対応する医療機関や相談機関が、そうした仲間につなぐことができるかが、今後の課題だと思います。

私は、家族だけでその人の全生活を支えるのはもう無理だという気がしています。仲間もそうですが、今後は職場や地域社会がより大きな意味を持つようになるでしょう。働き手不足が懸念されるなか、初期の認知症の人も、会社で、あるいは地域社会で、できること、得意なことを任される。できないことは周りのみんなでカバーする。そういう世の中は悪くないと思います。未婚の単身男性や、高齢になっても働く人が増えている日本の状況にも合っています。家族のいる方の場合は、会社で役割を担い、一定の満足感をもって帰宅すれば、家庭でのトラブルも少ないはずです。これは認知症に限らず、さまざまな病気や障害をもちながら、みんなで暮らしていく社会の大切なモデルになると思います。

今日の取材は初期の認知症がテーマでしたが、当会の認知症の方は以前よりも幅が広がり、30歳代から100歳くらいの方もいます。病気のステージもさまざまです。行政には、初期の対応も大事ですが、BPSD(行動・心理症状)が顕著になりやすい中重度の方々の支援、それからやはり家族のサポートにもきちんと目を向けてほしいとお願いしています。

認知症の方を支える財源や人材に限りがあるなか、介護経験のある家族は重要な社会資源です。介護経験者が対応する当会の電話相談には、年間2万件ほどの相談がありますが、その約9割は会員ではない方々からのものです。看取りを終えた後も残ってくださる会員も多く、心の整理について話してくださったりしています。そうした介護経験者の活動をしっかり支える仕組みが、これからの社会には必要だと感じています。

世界アルツハイマーデー(9月21日)・アルツハイマー月間(9月)に関する啓発活動などを通して、認知症への理解を呼びかけています。