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Molecular targetアミロイドからオリゴマーへ
アルツハイマー病(AD)の病因メカニズムに関する最新知見

Ono Kenjiro
小野 賢二郎 先生

昭和大学医学部 内科学講座 脳神経内科学部門

Aβ凝集過程の測定

ADの発病メカニズムとしては、最初にアミロイド前駆体蛋白(APP)からAβがモノマー(1量体)として切り出され、それが2個以上集まってAβオリゴマー、さらに数百個以上凝集して成熟線維が形成される。この老人斑ができる過程がトリガーとなり、次のカスケードとしてリン酸化されたタウが重合して神経原線維変化を形成し、さらに神経細胞障害を起こしてコリン作動性神経細胞を中心とする神経細胞死が生じる。このような病理学的背景のもと、正常認知機能からMCI、認知症へと進展していくのではないかと考えられている(アミロイド仮説)。

アミロイド仮説に基づき、①Aβ産生抑制、②Aβ分解促進、そして③毒性を発すると考えられるAβオリゴマーやAβ線維の形成を抑制するAβ凝集制御の3つのアプローチがとられている。

私はAβ凝集制御に着目し、チオフラビンT法を中心に実験を進めてきた。Aβがモノマーの段階でチオフラビンTを結合させ、445nmの光で励起しても変化は起きない。しかしAβが凝集して線維状の構造をとると490nmの光を発するようになる。したがって蛍光強度を測定することにより、Aβ凝集の度合いを把握することができる。われわれは、この実験手法を用い、ワイン関連ポリフェノール(ミリセチン等)がAβ線維の形成を抑制することを明らかにした1)2)

ADの治療ターゲットは老人斑からAβオリゴマーへ

2008年、Aβ免疫療法の臨床試験の剖検結果が報告された3)。その内容は、Aβ免疫療法により、Aβで構成される老人斑は有意に除去されたが、老人斑の減少と認知機能の改善は相関しないというものであった。さらに、アミロイドPETとタウPETを併用したヒトでの研究では、AD発症時点でAβ蓄積はほぼプラトーに達しているのに対し、タウの蓄積部位はADが軽度から重度に進むにつれて拡大していくことが確認された4)。ではアミロイド仮説は否定されるのか。これに関しては仮説を支持する所見がある。たとえば、APPのA673T変異はin vitroにてAβの産生を約40%低下させるが、同変異を有する人はADを発症する可能性が通常の5~7分の1となっているだけでなく、高齢による認知機能低下も抑制されていたことが報告されている5)

老人斑の減少と認知機能の改善が相関しないこと、あるいは認知症発症時点ではAβ蓄積がほぼプラトーに達していることに対する一つの考え方として、最終段階のAβ成熟線維(老人斑)よりも、早期のオリゴマーないし少し凝集が進んだ高分子オリゴマーの段階がAD発病メカニズムにおいてより重要である可能性がある。1997年にTeplowらは、Aβ線維形成過程における新たなビーズ状の中間凝集体を発見し、これを“プロトフィブリル”(PF)と名付けた6)

われわれは、Aβの1量体(モノマー)、2量体(ダイマー)、3量体(トライマー)、4量体(テトラマー)を分離して抽出することに成功した7)。そして1量体から2量体、3量体、4量体へと重合が進むのに伴い神経毒性が増加すること、無構造の1量体から2量体になる過程で折り畳まれてβ- シート構造を形成することを明らかにした。

ADの臨床症状を呈する家系(Osaka mutation)では、アミロイドPETは陰性にもかかわらず、生体試料の解析でAβオリゴマーの増加が認められている8)。さらに、Osaka mutationのトランスジェニックマウスの検討により、まだタウのリン酸化が始まっていない段階でAβオリゴマーを増加させると、老人斑がないにもかかわらずタウのカスケードが動き出すことがわかった9)

プロトフィブリルの新たな位置付け

われわれは金沢大学・中山らと、Aβモノマーからの線維形成過程と、前述のプロトフィブリル(Aβ凝集過程の中間体)からの線維形成過程を高速原子間力顕微鏡にて比較検討した10)。その結果、モノマーからの線維形成においては、モノマーから重合核(シード)形成までは少し時間がかかるが、いったんシードが形成されると急速に線維形成が進むことがわかった。

では、プロトフィブリルからの線維形成はどうなのか。従来は、モノマーから低分子オリゴマー、プロトフィブリル(高分子オリゴマー)、成熟線維という経路が考えられてきた。しかし予想に反し、プロトフィブリルからの新たな成熟線維の形成は、モノマーからの凝集過程ですでに成熟線維が多く形成される時間が経過してもわずかしか認められなかった。

この謎を解くために、プロトフィブリルの1分子観察を行ったところ、凝集サイズが時間経過とともに小さくなることを発見した。

以上の結果からわれわれは、プロトフィブリルはモノマーから成熟線維に至る経路((A)ON-pathway)とは違った経路((B)OFF-pathway)に位置する可能性があることを提唱した。プロトフィブリルはOFF-pathwayの行き止まりにあり、おそらくそこで神経毒性を発している。そしてモノマーにいったん脱重合してからON-pathwayに入ると考えている。

最近のわれわれの研究では、プロトフィブリルはモノマーよりも強い細胞毒性を有すること、おそらく酸化ストレスにより細胞膜にダメージを与えていることなどもわかってきた11)

1)Ono K et al.: J Neurochem. 2003; 87(1): 172-81
2)Ono K et al.: Biochim Biophys Acta. 2004; 1690: 193-202
3)Holmes C et al.: Lancet. 2008; 372(9634): 216-223
4)Maruyama M, Higuchi M et al.: Neuron. 2013; 79(6): 1094-1108
5)Jonsson T et al.: Nature. 2012; 488(7409): 96-99
6)Walsh DM, Teplow DB et al.: J Biol Chem. 1997; 272(35): 22364-22372.
7)Ono K et al.: PNAS. 2009; 106(35): 14745-14750
8)Tomiyama T et al.: Ann Neurol. 2008; 63(3): 377-387
9)Tomiyama T et al.: J Neurosci. 2010; 30(14): 4845-4856
10)Watanabe-Nakayama, Ono K et al.: PNAS. 2016; 113(21): 5835-5840
11)Yasumoto T et al.: FASEB J. 2019; 33(8): 9220-9234