クローン病における栄養療法の位置づけ
監修
医療法人 弘仁会
てんのうじ消化器・IBDクリニック
鎌田 紀子 先生
増え続けているクローン病
本邦におけるクローン病の患者数は右肩上がりで増加しており、現在約7万人の患者さんがいると考えられています。1) また、増加の背景には食生活の欧米化などが関与しているとも言われています。2)
クローン病は若年発症が多い
クローン病は若年発症を特徴とします。2) 小児では成長障害、薬物の副作用の配慮もあり、栄養療法が重要な役割を担っています。小児クローン病治療指針において栄養療法は優先的に選択されるべき治療法とされています。3)
クローン病治療指針
こちらが2024年3月に改訂された小児クローン病治療指針のフローチャートです。寛解導入療法の第一選択は完全経腸栄養療法であり、寛解維持療法においても、可能な限り、部分経腸栄養療法を続けることが望ましいとされています。4)
12.小児クローン病治療指針(2024年3月改訂)
小児クローン病治療フローチャート
(注1) 治療開始後も、非侵襲的で腸管選択的なバイオマーカー(便中カルプロテクチン等)や、画像診断(上部消化管内視鏡検査、大腸内視鏡検査、小腸内視鏡検査、MR enterography、腸管エコー検査等)を活用して、治療効果を適切に判定することが重要である。
(注2) 特に治療効果が不十分な場合は、時機を逸さないようにするためにも、小児クローン病の診療経験のある医師や施設に治療方針を相談することが望ましい。
(注3) どの段階でも外科治療の適応を十分に検討した上で内科治療を行う。なお肛門病変(g)・狭窄の治療、術後の再発予防の詳細については本文参照。
(注4) 治療を開始する前に予防接種歴・感染罹患歴を確認し、定期・任意接種とも、積極的に行うことが望ましいが、詳細については本文参照。
a. 以下の予後不良予測因子を有する患者は、早期の抗TNF-α抗体製剤導入を検討する
Paris classification* | 追加のリスク因子 | リスク層別化 | 推奨治療 | |
B1 | 炎症型 | なし | 低 | 完全経腸栄養療法・ステロイド |
B1 | 炎症型 | 寛解導入療法開始後12週時点で非寛解 | 中 | 抗TNF-α療法へのstep-up |
B1+G1 | 炎症型 | 成長障害 | 中 | 完全経腸栄養療法 抗TNF-α療法導入(考慮) |
B1+[L3+L4] | 炎症型 | 広範病変(小腸+大腸) 深い大腸潰瘍 | 高 | 抗TNF-α療法導入 |
B1+p | 炎症型 | 肛門病変(g) | 高 | 抗TNF-α療法導入+抗菌薬・外科治療 |
B2 | 狭窄型 | なし | 高 | 抗TNF-α療法導入 |
B2 | 狭窄型 | 狭窄前拡張あり 閉塞症状・閉塞徴候あり | 高 | 腸管切除術+術後抗TNF-α療法 |
B3 | 穿通型 | 腸管穿孔・内瘻・炎症性腫瘤・膿瘍形成 | 高 | 外科治療+術後抗TNF-α療法 |
*B1: 炎症型、B2: 狭窄型、B3: 穿通型、G1: 成長障害あり、p: 肛門病変あり、L1: 小腸型、L2: 大腸型、L3: 小腸大腸型、 L4: 上部消化管病変(L4a)および回腸末端1/3よりも口側の小腸病変(L4b)
b. 重篤な場合とは下記1~ 5のいずれかの場合である
1. 頻回(6回/日以上)の激しい下痢、下血、腹痛を伴い経腸栄養が困難
2. 消化管出血が持続
3. 38℃以上の高熱、腸管外症状(関節炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、口内炎など)により衰弱が強く、安静の上全身管理を要する
4. 著しい栄養障害がある
5. PCDAIが70(又はCDAIが450)以上
c. 5-ASA製剤は、軽症例の寛解導入・寛解維持薬として選択されるが、クローン病に対する有効性を示す根拠はない
各薬剤の使用にあたっては、電子添文をご確認ください。
4)厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班) 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和5年度分担研究報告書 令和6年3月, P.55
一方、成人においても、栄養療法に関しては寛解導入から寛解維持まで広く推奨されています。また、病状や受容性により、栄養療法、薬物療法あるいは両者の組み合わせで治療を行うことが記載されています。5)
8.クローン病治療指針(2024年3月改訂)
令和5年度クローン病治療指針(内科)
短腸症候群に対してテデュグルチドが承認された(適応等の詳細は添付文書参照のこと)
※(治療原則)内科治療への反応性や薬物による副作用あるいは合併症などに注意し、必要に応じて専門家の意見を聞き、外科治療のタイミングなどを誤らないようにする。薬用量や治療の使い分け、小児や外科治療など詳細は本文を参照のこと。
*現在保険適用には含まれていない
各薬剤の使用にあたっては、電子添文をご確認ください。
5) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班) 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和5年度分担研究報告書 令和6年3月, P.414) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班) 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和5年度分担研究報告書 令和6年3月, P.55
5) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班) 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和5年度分担研究報告書 令和6年3月, P.41
腸管炎症のメカニズム
腸管炎症のメカニズムは、全てが解明されたわけではありませんが、新薬の開発に伴い、TNFα、IL12, IL-23, 接着因子の関与の重要性、そして、腸内細菌叢や食事成分の影響を検討した基礎および臨床研究の進歩からこの図に示すようなカスケードがわかってきました。3)
食事療法・栄養療法の位置づけ
活動期のクローン病の状態を火事に例えてみると、薬物療法は起こった火事を鎮火させる消防車のような役割です。一方、食事療法・栄養療法は、火事にならないように日頃から火の用心をする、すなわち、クローン病では腸に負担をかけない、炎症を起こさせないようにする役割になります。薬物療法と栄養療法は病気に対してのアプローチの仕方が違うため、それぞれの治療を比較して選択するのではなく、長期に良い状態を維持するために各治療を組み合わせることが大切です。3)
平成30年度の治療指針改訂において、抗TNF-α抗体製剤の経腸栄養療法併用効果に関する記載が追加されました。抗TNF-α抗体製剤で治療するクローン病患者の寛解導入と寛解維持について、成分栄養剤を中心とする経腸栄養療法の併用効果が、近年本邦において多数の施設で報告されています。6)
7.令和元年度クローン病治療指針 -平成30年度改訂の要点と解説-
なぜ、IBDに栄養療法が必要か?
「なぜIBDに栄養療法が必要か?」に関しては、日本消化器病学会編集の「栄養療法の手引き」にも記載されています。消化管へのストレスを軽減することは重要であり、特に主たる栄養吸収部位の小腸に病変を認めるクローン病は、経腸栄養剤を中心とした栄養療法が有効となることが記載されており、患者さんの病型に応じて栄養療法の検討が必要です。7)
栄養療法の導入ポイントと指導のコツ
栄養療法の導入のポイントは、クローン病と診断された最初が肝心です。私が心掛けていることは患者さんが話しやすい雰囲気を作り、自分の病状や栄養剤の役割を十分に理解いただくことです。成分栄養剤は処方した量が飲めなくても、褒めてできるだけ無理をせずに続けてもらうことがコツです。是非、小腸に病変がある方、Alb値が低い方、Bioの有無に関わらず栄養療法を勧めてはいかがでしょうか。3)