第1回:排泄ケア、それは・・・
排泄ケア(排便ケア)に取り組みませんか
監修 日本コンチネンス協会 名誉会長 / コンチネンスジャパン株式会社 専務取締役 西村かおる 先生
ポイント
-
排泄は人間の持つ基本的な欲求の一つ
-
排泄ケア / コンチネンスケアが目指すのは「ソーシャルコンチネンス」
-
ソーシャルコンチネンスケアを実現するためには、課題を見つけることから
Chapter1 排泄ケアが目指すもの
排泄とは
排泄ケアとは何かを考えるにあたって、まず、「排泄」について考えてみます。
排泄は、人間が持つ生理的欲求(飢え、乾き、睡眠、性など)の一つです。
また、人は自分の体とそれ以外に明確な境界線「自我境界」を持っています。体内にあったもの(便、尿、髪の毛、爪、垢など)が体から離れた途端に異物・不潔なものと認識する感覚です。自我境界が明確であることで、それらを不必要なものとして扱うことができるのです。
さらに、人が集団生活する上で、生活環境を清潔に保ち、感染症などの疾病を予防することが必要であることから、社会の発展とともに排泄物は汚物との認識が強くなり、人にとっての排泄は人が生活する空間とは離れたところで排泄し、排泄物を速やかに処理するまでを含むようになりました。
そのために、人は適切な排泄ができるように幼い頃からトレーニングを受け「排泄の自律性」を獲得します。疾病や加齢に伴う排泄障害は、一度獲得した排泄の自律性を喪失する経験であり、恥や自己嫌悪をもたらすことになります。
「失禁」という言葉はよく知られていますが、その反対語、つまり正常な排泄を表す日本語「禁制」はすぐに思い浮かぶでしょうか。「禁制」という言葉にあまり馴染みがない原因は、日常的に異常な状態に注目しすぎて、正常な状態に目が向いていないことを示しているかもしれません。
失禁の英語は「Incontinence インコンチネンス」、禁制の英語は「Continence コンチネンス」。コンチネンスは排尿・排便がコントロールできている状態を意味し、排泄を肯定的に表す言葉です。
「コンチネンスケア」には排泄を肯定的に捉え、前向きに問題を作らないようにするという点が含まれます。
排泄ケア / コンチネンスケアとは
では、排泄ケア / コンチネンスケアとは何を示すのでしょうか。
まずは、排泄障害の予防が挙げられます。具体的には、適正体重を守る、骨盤底筋訓練、食事改善などです。次に、排泄障害がある場合、完治を目指した治療に関するケアが含まれます。
そして、排泄障害が元に戻せない障害として残った場合は、障害によって生活上支障が起こらないよう、より良い排泄ができるようマネジメントをするケアが必要となります。
排泄障害は治せるとは限りません。障害がありながらも、生活上支障がなく、社会的に自立した生活を送ることができる状態が「ソーシャルコンチネンス」です。
排泄ケアは、障害がない人はより良い排泄を、障害が残った人には身体的、精神的、そして社会的にも問題なくコントロールできるように支援するケア(ソーシャルコンチネンスケア)であり、何より個人の尊厳を守るケアと言えます。
ワークシート
他ワークシートで、ご自身の現在の排泄ケアの問題点について振り返ってみましょう。以下のボタンからダウンロードしてご活用ください。
※ダウンロード版は A4 PDF となります。
回答用
Chapter2 ソーシャルコンチネンスケアを実現する第一歩~あなたの課題を知ろう~
排泄ケアへの課題を見つけましょう
排泄ケア見直しの第一歩は、自身がどのようにケアに望んでいるかを確認し、課題を認識することから始まります。どこに課題があるのか、排泄ケアを6段階のステップに分けて考えてみましょう。ぜひ、ワークシートに回答して考えてみてください。ワークシートでAの項目にチェックがついた箇所が課題のあるステップです。この6段階のステップでプラスの要因を積み上げることで、次第にステップアップしていきますが、その道のりは直線的ではありません。壁にぶつかれば課題を見つけ、振り返りながら、らせんを描くように上がったり下がったりして徐々に高まって行きます。
ワークシート
ワークシートで、ご自身の排泄ケアの態度について確認しましょう。以下のボタンからダウンロードしてご活用ください。
※ダウンロード版は A4 PDF となります。
回答用
ステップ1でAにチェックがついた場合、排泄ケアを受ける患者さんの気持ちや状態に関わらず機械的なケアを行なっている、また現在のケアに疑問を持っていない可能性があります。そのような場合は、「私がこの人だったら、今、私がしているケアを受けたいか?自分の家族に受けさせたいか?」と自分に問いかけてみてはどうでしょうか。
ステップ2でAにチェックがついた場合、勉強することが学校の授業の続きで面白くないものと感じているからかもしれません。しかし、知識を得ることは、自分のケアについて目から鱗が落ちるように新鮮な別の見方ができたり、得た知識で問題を解決するといった楽しさに繋がるものです。
例えば文献などを読む際、全てを覚えようとするのではなく、自分に活かせるものはないかという視点で読んでみると、得られるものが多く見つかるのではないでしょうか。
ステップ3でAにチェックがついた場合は、多忙な職場で時間・お金がないと感じているかもしれません。そのような場合は、「タイムマネジメント」を勉強することで役に立つことがあります。タイムマネジメントでは、目標を持ち、時間やお金をどのように使っているのか分析することが重要です。
例えば、排泄日誌を付けて分析することは、一見時間が余分にかかる作業に思えますが、排泄パターンを把握することで余計なオムツ交換が減ったり、不必要な下剤を使って便失禁に振り回されることが減り、結果的にケアを効率化することに繋がります。
ステップ4でAにチェックがついた場合では、排泄日誌をきちんとつけようとしても「仕事を増やすな」などと言われていることがあるかもしれません。
まず、相手がなぜそう思うのかを分析してみましょう。相手がステップ1や2に課題を持っているかもしれません。また、自分の伝え方に課題があるかもしれません。仲間をやる気にさせるには、うまくいった事例を共有することが力になります。また、諦めず伝えていく姿勢が大切です。
ステップ5でAにチェックがついた場合、他職種とうまく連携ができていない可能性があります。例えば、医療職の意図がうまく伝わらず、介護職の協力が得られない状況などがあります。
まず、どこに問題があるのかをつかみましょう。知識不足、伝え方の技術不足、ひとりよがり、自分の中に原因があるのか、相手に原因があるのか。相手の価値観を理解し、アプローチすることが重要です。
ステップ6でAにチェックがついた場合、結果だけで評価してしまっている可能性があります。
排泄ケアは、結果だけでなくプロセスも重要です。オムツや留置カテーテルが良いか悪いかは個人によって異なり、同じ結果でも患者さんによって評価は大きく変わるのです。状況に合わせてベストな方法を確認し、結果が出なければ、十分に分析して次に活かすことが重要です。
動画説明
患者さんへの聞き取りに悩むミステリー好きの看護師。上手くいかない原因はどこに・・?