第8回:下剤に頼らない排便ケア-近森病院の取り組み② 多職種連携-

排泄ケア(排便ケア)に取り組みませんか

監修 日本コンチネンス協会 名誉会長/コンチネンスジャパン株式会社 専務取締役 西村かおる 先生

ポイント

  • コンチネンスケアは多職種で取り組む必要がある
  • 多職種連携によって専門性の高いケアの提供を
  • チームで希望を持つこと、前向きな考え方をすることが大切

Chapter1 栄養士・薬剤師の取り組み

※近森病院の取り組み内容は『精神看護 2014年3月号』医学書院の特集記事を元に構成しています。

近森病院総合心療センター コンチネンスケアチーム

第7回では、近森病院総合心療センターで2012年に発足したコンチネンスケアチームの取り組みをご紹介しました。コンチネンスケアチーム発足によって、総合心療センターでは「排便ケアに特化したチーム医療」が初めて行われることとなりました。そのメンバーは、医師、看護師、介護士、栄養士、薬剤師という多職種のメンバーです。今回は、コンチネンスケアチーム発足当時に栄養士と薬剤師がチームスタッフとしてどのように取り組んだのかをご紹介します。

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近森病院総合心療センターへの取材より

栄養士の取り組み

排便と食事は密接に繋がっています。栄養士の西森さんは排便状況も考慮して栄養管理を実施することが必要でした。そこで、次の5つの取り組みを行いました。

  1. 水分と栄養の管理

  2. 水分摂取の管理

  3. 食物繊維、特に水溶性食物繊維の摂取

  4. 腸内環境を整える

  5. 栄養指導

1.水分と栄養の管理

毎日の食事摂取量と排便回数・排便量を照らし合わせて栄養管理を実施しました。これには、排便日誌が活用されました。
7日間以上の食事摂取不良や栄養状態低下の患者さんを早期に把握し、食事摂取の促しや、栄養補助食品の提供を行いました。

2.水分摂取の管理

食事以外での水分摂取量の把握は困難ですが、看護スタッフと協働して情報収集しました。得られた情報から水分摂取量を算出し、生化学・血液検査データや尿回数をアセスメントし、脱水や多飲のリスクを評価します。
脱水症状やブリストルスケール1・2(第2回「排泄ケアの基本」Chapter2の動画をご参照ください。)の患者さんには、看護スタッフと一緒に飲水を促したり、主治医へ点滴を提案したり。多飲やブリストルスケール6・7の患者さんには、体重測定やコップの管理など水分制限を行いました。


※Lewis SJ, et al.: Scand J Gastroenterol 1997; 32(9): 920-924

3.食物繊維、特に水溶性食物繊維の摂取

食物繊維、特に水溶性食物繊維の摂取に関しては、食事に食物繊維が豊富な野菜類、海藻類、果物類を取り入れるようにし、不足している患者さんには、摂取を促すことや、食物繊維の追加付加を行いました。例えば、粉末の水溶性食物繊維を味噌汁などの液体に溶いたり、お浸しなどの副菜にあえたりなどです。また、不溶性食物繊維に偏ると便が硬くなる恐れがあるため、不溶性と水溶性が2:1となるよう、調整を行いました。

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近森病院総合心療センターへの取材より

4.腸内環境を整える

腸内環境を整える取り組みは、まず、腸の動きをアセスメントすることから始めました。腹部の聴診や触診を行い、腸の動きが弱い、ガスが溜まっているという患者さんには、オリゴ糖や乳酸菌の付加を行い、腸内環境を整えていきます。これを退院後も継続できるように患者さんに促し、また、薬剤師ともミーティングして乳酸菌の付加と整腸剤が併用できるよう、方法を選択していきました。

5.栄養指導

栄養指導は、患者さんに向けて行います。患者さんは退院後、排便コントロールを自分で実施していく必要があるからです。そこで、入院初期から、食事と生活の両方についての指導を看護師とともに行います。
さらに、患者さんのご家族、医療スタッフへの情報提供も行いました。

薬剤師の取り組み

薬剤師の西田さんがチームスタッフとして取り組んだのは次の6つでした。

  • 便秘に関連する薬剤の確認

  • 副作用の確認

  • 服薬指導

  • 整腸剤の提案

  • 心理教育

  • 情報提供

です。

この中から、「心理教育」と「情報提供」についてご紹介します。

1)心理教育

心理教育では患者さんに便秘や下痢について知識を持ってもらう働きかけを行っていきました。精神科薬剤を中心に、病院で採用している薬剤について、薬剤名・製剤写真を載せたテキストを使ってレクチャー。副作用としての便秘・下痢について解説します。
薬の影響だけでなく、生活環境や食事・睡眠などにも気を付ける必要があることも伝えました。また、下剤も同じようにレクチャーしました。これは、患者さんから主治医に薬剤を相談するきっかけにもなりました。なかには、患者さんが排便コントロールが改善したことを主治医に伝え、下剤が中止になったケースもあったのです。

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近森病院総合心療センターへの取材より

2)情報提供

情報提供は、医療スタッフに向けて行いました。コンチネンスケアの取り組みが進む中で、「薬剤、特に下剤のことを教えて欲しい」「患者さんに、正確な情報を伝えることはできないだろうか」という、看護師からの熱心な相談を受けていたのです。そこで、排便コントロールに使用する薬剤についてまとめた表を作成しました。こうしたことで、医療スタッフ間で情報交換が行われるようになっていきました。

改革当時のコンチネンスケアチームのスタッフの想い

栄養士 西森さん

「改革以前は、管理栄養士からは排泄に関わる食事対応や栄養指導について“提案する”ことが中心でした。
コンチネンスケアチームとなってからは、多職種でアセスメントし、対応方法を考え、選び、実施するという関わり方に変わりました。栄養指導や食事対応をする件数はかなり増え、患者さんの意識が高まったという手応えを感じることができました。」

薬剤師 西田さん

「コンチネンスケアの活動以前は、入院時から定期処方、頓服で下剤を服用していた結果、医療者も患者さん自身も下剤に頼ってしまい、下剤を連用する傾向にありました。
チームに参加した当初は何をしていいのか悩んでいましたが、スタッフと情報を交わしていく中で、処方箋からでは分からない排泄ケアの実態が見えてきました。病棟スタッフとの双方向のやり取りから、薬剤変更や整腸剤の導入などを提案する機会も増えました。患者さんのQOLの向上に排泄がいかに重要かということ、そして、排便コントロールをすることで精神的にもサポートできることに気づかされました。」

現在の近森病院総合心療センターの栄養士・薬剤師の取り組み

現在の近森病院総合心療センターでは「下剤に頼らない排便ケア」が根付いたことでコンチネンスケアに特化したチームは作られていません。栄養士・薬剤師はチーム医療スタッフとして診療全体に関わるなかで、排便コントロールに関するケアも行なっています。
現在総合心療センターで栄養士を務める川﨑さん、薬剤を務める田上さんにお話を伺いました。

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管理栄養士 川﨑麻由さん

川﨑さんは、栄養士として患者さんの状況に合わせた適正な食事の内容を検討し、提供しています。食事状況を実際に確認し、患者さんご本人からも聞き取りを行います。

川﨑「食事内容を検討する時は、カルテの排便状態や、食事の摂取状況、患者さんご本人の声から検討しています。また、退院後も自宅で続けられるように栄養指導を行っています。面談などで気になることがあれば、その都度スタッフにフィードバックをしています。」

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薬剤師 田上浩子さん

田上さんの活動は、毎朝のカンファレンスで名前の上がった患者さんの問題と薬剤との関係を総合的に判断することから、患者さんの状況に合わせた剤形変更の提案や、薬剤変更の提案、薬剤の情報提供までに至ります。
田上さんが判断材料を得る大きなソースもまた患者さん自身です。病棟に足を運び、自分の目で患者さんの状況を確認します。

田上「気になる患者さんがいる時は病棟や作業療法室まで会いにいくことがあります。カンファレンスやカルテでは拾えない患者さんの状況を把握することができるからです。動作の緩慢の度合い、震えの度合い、便秘の度合いなど、カルテでは読み取れないことがわかり、薬剤の調整の提案につなげています。
病棟へ通うことで、患者さんに薬剤師として覚えてもらうことで、患者さんの方から薬について質問をしてくれることがよくあります。『薬を変えてから便秘になったのは副作用なのか』といった便秘に悩むような声があれば、排便の状況を聞き取り、看護師と状況をすり合わせて、フィードバックすることがあります。」

近森病院総合心療センターの医療は、多職種がそれぞれの視点で患者さんを見て、それぞれが判断して直接患者さんに介入する自立・自動するチーム医療です。それによって専門性が高く、効率的で質の高いチーム医療の実践へとつながっています。

動画説明

今回の動画では、近森病院総合心療センターコンチネンスケアチームの栄養士・薬剤師の取り組みを再現アニメでご紹介します。
動画の内容や画像の一部は近森病院総合心療センターよりご提供いただきました。

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ワークシート

多職種とのかかわりについて考えてみましょう。以下のボタンからダウンロードしてご活用ください。
※ダウンロード版は A4 PDF となります。

回答用

Chapter2 多職種連携のポイント

多職種連携の必要性

現在はどの医療でも多職種連携が必要とされていますが、排泄ケアは特にその必要性が高いケアです。その理由として以下が挙げられます。

  • 排泄行為は連続した動作であり、それぞれの動作への援助が必要である

  • 人によっては、昼夜に渡ってケアが必要である

  • 治療とケアが合致することが重要である

多職種連携のポイントには以下の6つが挙げられます。

  1. 必要なチームメンバーが集まる、各専門職種が各々の責任を果たす

  2. 目的・目標を明確にし、共有する

  3. チームメンバー同士は共通言語が使える

  4. 細やかに新しい情報を共有できる

  5. 学習会、研修会を持つ

  6. うまくいった結果の喜びを共有する

では、多職種連携のポイントを近森病院の例を交えて見ていきましょう。

1.必要なチームメンバーが集まる、各専門職種が各々の責任を果たす

よいチームアプローチのためには、まず、必要なチームメンバーが集まること、各専門職種が各々の責任を果たすことです。排泄ケアのチームメンバーとして、下図の職種が挙げられます。さらに、患者さんご本人とご家族を含めます。排泄ケアはご本人の参加が不可欠です。

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西村かおる(2013)『新・排泄ケア ワークブック−課題発見とスキルアップのための70講−』中央法規出版より改変

近森病院のコンチネンスケアチームでは、オリゴ糖、乳酸菌などの自費購入や、食事・水分摂取の改善、運動などに取り組んでもらうために、排便日誌から得られた情報を患者さんやご家族にも提供し、共有しました。

2.目的・目標を明確にし、共有する

二つ目のポイントは、目的・目標を明確にし、共有することです。
近森病院のコンチネンスケアチームの目標は「下剤に頼らない排便ケア」でした。目標が明確であることで、チームメンバーは目標に向かって何をすべきかを考えることができていました。

3.チームメンバー同士は共通言語が使える

近森病院では、まず排便日誌が改革されました。曖昧だった基準を統一することで、チームに共通言語が生まれました。このように共通した用語を使い、患者さんの状態やケア内容など、チームメンバーが同じイメージを持って会話・情報共有できるようにして、正確なアセスメントにつなげます。

4.細やかに新しい情報を共有できる

細やかに新しい情報を共有するためには、定期的、あるいは必要に応じてカンファレンスを持ちます。記録を必ず残し、参加できなかった人も確認できるようにして、情報を共有します。また、次回のカンファレンスの課題を明確にして、意識を持って集まることができるように調整します。

5.学習会、研修会を持つ

排泄に関する基礎知識やおむつ体験などを共有できるように、学習会や研修会を持ちます。近森病院では、チーム発足時からアドバイザーの西村かおる先生の勉強会に参加して、基礎知識を学んでいきました。また、院内に向けて、チームメンバーが勉強会や症例検討会への参加・発表を行うことで、病棟スタッフへの周知、理解を図りました。こうした取り組みで、チームメンバーそして院内に理解者を増やしていきます。
さらに、近森病院では西村かおる先生による定期的なラウンド、患者さんを直接看ながらのコンサルティングを受けること、またカンファレンスでケースごとの指導を受けることで、応用力をつけていきました。

6.うまくいった結果の喜びを共有する

成功した体験はモチベーションの維持に非常に重要です。うまくいった結果を高く評価し、モデルケースとして方法論を取り上げるだけではなく、患者さん中心のケアという排泄ケアの原点に立ち戻って勇気を持つことができるよう、仲間と意識づけをしましょう。

西村かおる先生のお話

近森病院総合心療センターのコンチネンスケアチームにアドバイザーとして携われた西村かおる先生にお話を伺いました。

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西村かおる先生

「近森病院精神科のコンチネンスケアチーム発足に際して、私は外部からアドバイザーという形で入り、スタッフの変化を見守りました。チームスタッフは、不安や迷い、戸惑いなどがありましたが、仲間の結束を強めながら乗り越えて行きました。その姿から、ケアに対する思いとチームで基本を理解することがいかに大事かを再認識させてもらいました。
まずは、チームで希望を持つこと、前向きな考え方をすることが大切です。」

動画説明

近森病院総合心療センターの取り組みを記事で読んだミステリー好き看護師。何やら大変感銘を受けたようで・・・
動画の内容や画像の一部は近森病院総合心療センターよりご提供いただきました。

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ワークシート

多職種との関わりについて考えてみましょう。以下のボタンからダウンロードしてご活用ください。
※ダウンロード版は A4 PDF となります。

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