第3回:排泄アセスメントの実際(1)
排泄ケア(排便ケア)に取り組みませんか
監修 日本コンチネンス協会 名誉会長/コンチネンスジャパン株式会社専務取締役 西村かおる先生
本コンテンツは、西村かおる(2013)『新・排泄ケア ワークブック-課題発見とスキルアップのための70 講-』中央法規出版の内容を引用しています。
ポイント
- 問診によって、患者さんの抱える問題を把握し、排便症状から障害の原因を推測する
- 排便障害の改善には、身体状況、精神状態、動作、物的・人的環境、食事状況なども含めて観察する必要がある
- きちんと記録された排便日誌から、アセスメントを深め、患者さんに合った排便ケアの計画を立てる
Chapter1 排便ケアの問診
アセスメント方法としての問診
排便は直接観察することがなかなかできないため、問診が非常に大切です。
問診によって下記を把握・整理します。
- 患者さんが何に困っているのか
- 正確な排便状況
- 問題点
問診のポイント
1.プライバシーおよび心理面に配慮
排泄障害は、羞恥心を伴い、自尊心が損なわれることが多いデリケートな問題です。問診を行う環境は、周囲に声が漏れず、患者さんが安心し、落ち着いて話ができる環境を整えます。
また、患者さんが話す気持ちを持てる雰囲気を作ることが大切です。家族が同席する場合は、その関係性を察し、場合によっては別々に話を聞く配慮も必要です。
2.具体的に答えやすいように質問する
「どんな便が出ますか?」と聞いても的確に答えることができる人は多くありません。 質問自体を具体的なものに設定し、回答の例を示すと答えやすくなります。
例えば、便の性状を黄問する場合は、ブリストルスケールを使って 「どのスケールと近い便が出ることが多い ですか?」と聞く、などです。
3.気持ちや悩みを受け入れる
問診の中で、日常生活の困ったことや精神的な不安を患者さんが口にしたときは、できるだけしっかりと聞いて、受け入れます。共感することで患者さんと信頼関係を作ることにつながります。
問診の基本的質問事項
問診の基本的な質問事項としては、下記のような項目が挙げられます。
問診の具体例
基本的な質問事項で得られた回答結果から排泄障害を推測します。推測できれば、さらに具体的な症状別の問診に進みます。
次の 3 つの具体例で問診の深め方をみていきましょう。
患者さんの訴え 例1: 排便回数が少なく、便が硬い
- 困っていること:排便回数が少ない、便が硬く出しづらい、スッキリしない
- 排便回数:4日に1回
- 便性と量:ブリストル2※
- 食事回数と内容:1日2回、朝食なし
- 服用している薬:なし
この場合、次の5つのようなことが推測されます。
推測されたことについて、症状別の質問を進めます。
|
推測されること |
症状別の質問 |
患者さんの回答 |
---|---|---|---|
1
|
腸管運動機能が |
お腹の張りはありますか? |
なし |
2
|
便意があっても |
我慢せずにトイレに |
行けている |
3
|
そもそも食事量が |
お食事はしっか |
食事の量を減らしている。 |
4
|
食物繊維の摂取量が |
お野菜はしっかり |
好きなものばかりを食べて |
5 |
水分の摂取量が |
飲み物はしっかり |
飲んでいる |
便の元となる食事の量が少なく、食物繊維の摂取量も少ないことが原因である可能性が考えられます。
監修:西村かおる先生
※Lewis SJ, et al.: Scand J Gastroenterol 1997; 32(9): 920-924
患者さんの訴え 例2: 排便回数が少なく、便が硬い【入院中】
- 困っていること:排便回数が少ない、便が硬く出しづらい、スッキリしない
- 排便回数:5日に1回
- 便性と量:ブリストル1~2※、量は少ない
- 食事回数と内容:血便などはなし
- 服用している薬:高圧薬(Ca拮抗薬)
例1と同様の訴えの患者さんですが、入院中であることから
食事量や食物繊維の摂取量には問題がないと考えられます。
|
推測されること |
症状別の質問 |
患者さんの回答 |
---|---|---|---|
1
|
腸管運動機能が |
お腹の張りはありますか? |
なし |
2
|
便意があっても |
我慢せずにトイレに |
行けている |
3
|
そもそも食事量が |
食事内容は入院食のため |
- |
4
|
食物繊維の摂取量が |
食事内容は入院食のため |
- |
5 |
併用薬による影響? |
高圧薬を飲み始めた時期は? |
どちらも 5 ヶ月前 |
服用中の Ca 拮抗薬は腸管運動を低下させる、それが便秘に関係している可能性が考えられます。
監修:西村かおる先生
※Lewis SJ, et al.: Scand J Gastroenterol 1997; 32(9): 920-924
患者さんの訴え 例3:下剤を服用すると下痢になる
- 困っていること:便秘で下剤を服用するとお腹が痛く、出ると下痢になる
- 排便回数:2~3日に1回
- 便性と量:ブリストル5~7※
- 服用している薬:腸刺激性下剤、毎日服用
下痢になることを訴えている患者さんです。
下剤は、腸刺激性下剤を毎日服用していますが、
排便がない日もあり、排便があるときはお腹が痛く、下痢になります。
|
推測されること |
症状別の質問 |
患者さんの回答 |
---|---|---|---|
1
|
下剤が必要か? |
下剤を飲まなくても |
出ない |
2
|
下剤の量・種類が |
- |
- |
3
|
下剤の服用と排便周期が |
以前は毎日出していましたか? |
3 日に 1 回くらい |
下剤は必要、下剤の量・種類・周期を検討する、排便日誌をつけて服薬の変更と照らし合わせて、
下剤の効果を確認するという対応が考えられます。
監修:西村かおる先生
※Lewis SJ, et al.: Scand J Gastroenterol 1997; 32(9): 920-924
動画再生
×問診によって、患者さんの抱える問題を把握し、排便症状から障害の原因を推測していきます。そして、どのようなケアが必要か、患者さんの希望に沿うのか、アセスメントを深めていきます。
動画説明
休憩室で沈み込むミステリー好きの看護師。何やら患者さんの問診で問題が・・・?
ワークシート
排便ケアの問診の基本的な質問事項を確認してみましょう。以下のボタンからダウンロードしてご活用ください。
※ダウンロード版は A4 PDF となります。
回答用
Chapter2 排便の観察と排便日誌の読み込み
排便の観察
問診の次は、排便の観察です。排便障害を改善するためには、身体状況の観察はもちろん、精神状態、動作、物的・人的環境、食事状況なども含めて観察する必要があります。肛門や便を観察する際は、問診と同じように羞恥心や屈辱感に十分配慮する必要があります。
排便の観察項目
排便の観察には、次のような項目が挙げられます。
皮膚状態の観察は、下痢や便失禁の場合に重要です。特に寝たきりで便失禁があると、褥瘡のリスクが一段と高くなるので、注意深く観察します。観察に際しては、全体と部分が統合されるような観察が大切です。そして、観察後は結果から、問診と同様に、原因を推測します。
排便日誌の読み込み
問診や観察を踏まえて記載することで、排便日誌を充実したものにすることができます。記載された排便日誌からどのようなことが読み取れるでしょうか。
1.便性状
ブリストルスケールの 1・2 は便秘、3~5 は普通便、6・7 は下痢と判断します※。例えば、排便時、最初に 1が出て最後は 7 で終わる場合は、直腸で便が詰まっていて、その栓が取れると一気に出ていると考えられます。この場合のアセスメントとしては、まず、直腸にある便を早く出すことを計画します。
2.排便周期
排便周期は、1 回目の便が出て次に便が出るまでの日数です。間が数日開いていても 3~5 が気持ちよく出ていれば、その人の腸の働きは良いと考えます。つまり、1 週間に一度、3~5 の便が気持ち良く出る場合、排便周期は 7 日と考え、便秘ではない可能性があります。
3.下剤の影響
下剤を毎日たくさん服用し、下痢と便秘が続いているような場合は、一旦下剤の休薬を検討することも必要です。患者さんが不快感を訴えなければ 3 日以上は間を空け、腹部状態と合わせて様子を見て排便日誌に記録します。排便がない間、直腸診ができれば、直腸に便が溜まっているかどうかがわかり、腸の動きが良いか悪いかを推測できます。 こうした推測ができれば、ケア計画を立てることができます。
※Lewis SJ, et al.: Scand J Gastroenterol 1997; 32(9): 920-924
排便日誌を活用するには
排便日誌を活用する上では、排便周期や排便障害の原因を掴むために、記録がきちんと取られていることが重要です。チームで記録する場合は、担当が変わっても記入漏れが無いようにします。記録の期間は、排便周期が確認できる最低 1 週間から 1 ヶ月以上続けます。
排便日誌をつけたら、必ずアセスメントし、排便ケアの改善計画を立てます。例えば、下剤や浣腸、座薬などの処置がコロコロ変わるとどの処置が効果があったのか分かりません。下剤の使い方を確認し処置を統一し、その方法が適切であったかを評価し、問題があれば改善へとつなげていきます。
動画説明
排便日誌の記載中に患者さんの排便状況に疑問を持つミステリー好きの看護師。さっそく、患者さんへの聞き取りと排便日誌の読み込みで原因を探る!