第5回:排泄と食事の関係

監修 日本コンチネンス協会 名誉会長/コンチネンスジャパン株式会社専務取締役 西村かおる先生
本コンテンツは、西村かおる(2013)『新・排泄ケア ワークブック-課題発見とスキルアップのための70 講-』中央法規出版の内容を引用しています。

Chapter1 排便障害に適切な食事とは

便と食事の関係

便は食べた物の結果です。良い便のためには良い食事が不可欠です。また、便秘の人に適した食事、下痢の人に適した食事はそれぞれ異なります。排便障害に合わせた適切な食事を考えてみましょう。

便の成分

便の成分は、食物残渣と腸内細菌が約 60%を占めます。したがって、食物残渣である食物繊維と腸内細菌のバランスをよくすることが非常に重要です。つまり、よい便に望まれる食事は、食物繊維、難消化性糖質、有益な菌を含む食品、腸の動きを高める食品をバランスよく摂ることです。

便の成分(固形内訳)

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西村かおる(2013)『新・排泄ケア ワークブック-課題発見とスキルアップのための70 講-』中央法規出版

食物繊維の働き

食物繊維は、ヒトの消化酵素では分解されない食物成分で、不溶性と水溶性に分けられます。

不溶性食物繊維

不溶性食物繊維は、ゴボウやタケノコなどに多く含まれる硬い繊維です。その働きは、便の骨格を作り、便量を増加させます。便量の増加は、腸を押す圧力となり、腸の蠕動運動を促進します。
また、他の栄養素を包み込む作用があるため、糖質の消化吸収を緩やかにし、血糖値の上昇を抑えると考えら れています。

不溶性食物繊維を多く含む食品

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水溶性食物繊維

水溶性食物繊維は、水に溶けて高い粘性を示します。海藻のツルツル、野菜のネバネバなどです。ゴボウ、キクイモ、熟した果物などにも水溶性食物繊維が多く含まれます。水溶性食物繊維は便を柔らかくして適度な水分を含み、出しやすくします。
また、粘り気を高めることで、便と腸の表面とが触れる面積を小さくして、糖質の消化吸収を緩やかにし、血糖値の上昇を抑えます。この作用は不溶性食物繊維でもみられますが、水溶性食物繊維の方が粘性を高める効果は高くなっています。
小腸では胆汁酸やコレステロールを吸着して体外に排出し、血清コレステロール値を低下させると考えられて います。胆汁酸は、大腸では消化管運動の促進、水分分泌促進に働きますが、食物繊維は小腸で胆汁酸を吸着て大腸で放出することで、胆汁酸による生理的な排便を促すと考えられます。

水溶性食物繊維を多く含む食品

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食物繊維の発酵性

食物繊維は、大腸で腸内細菌による発酵分解を受け、それによって短鎖脂肪酸が作られます。この発酵性は食物繊維の種類により異なりますが、一般的に水溶性食物繊維の方が不溶性よりも発酵性が高くなっています。
作られた短鎖脂肪酸には様々な働きがあります。

  • 大腸の細胞に吸収され、エネルギー源となる
  • 消化管運動を促進する
  • 肝臓におけるコレステロール生合成を抑制する
  • 大腸内を酸性に傾かせ、ビフィズス菌や乳酸菌など有益な菌の増殖を促進する

などです。

食物繊維の発酵

(イメージ図)

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難消化性糖質の働き

難消化性糖質とは、難消化性オリゴ糖と糖アルコールのことを指し、ヒトの消化酵素では分解されないので、食物繊維に含まれることもあります。難消化性オリゴ糖には、ラフィノース、トレハロースなどがあり、糖アルコールにはキシリトール、ソルビトールなどがあります。
大腸で腸内細菌による発酵を受け、エネルギー源となりますが、エネルギー量は少ないため、低エネルギー甘味料として利用されます。

有益な菌を含む食品

有益な菌を含む食品には、発酵食品があります。納豆やヨーグルト、キムチなどです。発酵食品には乳酸菌やビフィズス菌が含まれます。
これらの菌は、腸の動きを調整する、糖の分解吸収を助けるなどして、よい便をつくります。また、発酵食品を摂取することで、元から生息しているビフィズス菌や乳酸菌などが活発になるのを助ける働きがあります。

腸の動きを高める食品

腸の動きを高める食品は、玉ねぎやオリーブオイルなどです。玉ねぎやニンニクに含まれる硫化アリル、オリーブオイルに含まれるオレイン酸、サツマイモのヤラピンなどの化学物質は、腸を刺激し動きを活発にします。

便秘の場合の食事

便秘の場合、上記の食品をバランスよく、ある程度の量摂取することが大切です。
しかし、腸の動きが悪い人は不溶性食物繊維をまとめてとると、かえって腸内に停滞してしまう可能性があります。その場合は、水溶性食物繊維や発酵食品も積極的にとるようにします。

下痢の場合の食事

急性の下痢の場合

急性の下痢は嘔吐や腹痛を伴い、食事の摂取は困難であることがほとんどです。脱水を予防するために、白湯や薄い番茶、野菜スープなどを少しずつとるようにします。症状が落ち着いてきたら、徐々に食事を再開します。原則的に腸に刺激の強い食品は避け、1 回の食事量は少なくして回数を増やします。
腸に刺激の強い食品としては、冷たい飲み物、油類、香辛料、炭酸飲料などの嗜好品、多量の不溶性食物繊維、タマネギやニンニクなど刺激の強い野菜、発酵食品、柑橘類などです。つまり、便秘の場合に摂る食品は下痢の時は避ける必要があります。
ただし、食物繊維に関しては「軟便を伴う便失禁に食物繊維を摂取することは有用」とされており、便の状態を改善するために適量摂取することは有効と考えられます。

慢性の下痢の場合

慢性の下痢の場合は、原疾患があることがほとんどなので。疾患に合わせて食事を摂ります。それぞれの症状、時期に合わせて食事を管理します。

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よい便には食物繊維、難消化性糖質、有益な菌を含む食品、腸の動きを高める食品をバランスよく摂取することが望まれます。また、食事は単に栄養を摂るためだけではなく、楽しみでもあります。できるだけ見た目も香りも美味しく、楽しい雰囲気で、口から摂取できる働きかけを行うことがよい便にも繋がります。

動画説明

便意が来ないと嘆くミステリー好き看護師。その要因は・・・?

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ワークシート

排便障害に適切な食事を考えてみましょう。以下のボタンからダウンロードしてご活用ください。
※ダウンロード版は A4 PDF となります。

回答用

Chapter2 プロバイオティクスとプレバイオティクス

腸内細菌とは

私たちの大腸には100 種類以上、100 兆個もの腸内細菌が生息していると言われています。腸内細菌はわかりやすく分類すると、体に有益な細菌、有害な細菌、日和見菌に分けられ、食事などの要因でこの3 つのバランスが変化します。

腸内細菌の働き

有益な働き

有益な働きには下記が挙げられます。

  • 外から来る菌に対してバリアとして働き、腸内感染や食中毒を防御する
  • 腸内の腐敗を抑制する
  • 便秘を改善する
  • 免疫活性を維持する
  • アレルギーを低減させる
  • 血中コレステロールを下げる
  • 血圧を下げる
  • 発がん物質を吸着または分解する

有害な働き

腸内細菌のバランスが崩れ有害菌が増加すると、下記のような影響が出てきます。そのため、有益な菌が優勢となるよう腸内細菌のバランスを整えることが求められます。

  • 有害物質が産生され、下痢や便秘が引き起こされる
  • 粘膜バリア機能の低下・免疫力の低下から様々な疾患に影響を及ぼす

有益な菌を増やすには

有益な菌を増やすには、有益な菌そのものであるプロバイオティクス 、有益な菌の餌となるプレバイオティクス 、有益な菌と餌が一緒になったシンバイオティクスを摂取することが挙げられます。

プロバイオティクスとは

「適正な量を摂取した時に有用な効果をもたらす生きた微生物」とされています。具体的には、乳酸菌やビフィズス菌で、それらを含むヨーグルトや乳酸菌飲料、整腸剤などがあります。
腸内はもともといる腸内細菌による生存競争が厳しいため、摂取したプロバイオティクスは腸内に定着しにくいといわれています。ただ、腸内細菌のバランスが良くない場合、摂取した菌が定着することがあります。また、食事の偏りやストレスなどで腸内細菌のバランスは崩れますが、プロバイオティクスを摂取し続けることで、バランスが崩れることを抑える働きがあります。

摂取のポイント

摂取のポイントは、同じ菌種を2 週間以上続けて摂取することです。摂取した菌が良い働きをして効果が出るまでには数日かかります。また、腸内の菌の状況は一人一人大きく違い、自分に合う菌でないと効果が出ないと考えられます。焦らず2 週間以上摂取し、それ以上摂取しても何の効果もない場合は、製品を代えて試してみます。

プレバイオティクスとは

「大腸内の特定の細菌の増殖および活性を選択的に変化させることにより、宿主に有利な影響を与え、宿主の健康を改善する難消化性食品成分」つまり、腸内細菌の餌となり増殖を助ける成分です。具体的には、オリゴ糖や食物繊維などです。
Chapter1 で解説した水溶性食物繊維およびオリゴ糖の腸内細菌による発酵分解とは、腸内細菌がこれらを餌として利用することを意味しています。また、発酵分解の過程で産生された短鎖脂肪酸は、大腸のエネルギー 源となるほか、大腸環境を酸性に傾かせ、酸性環境を好むビフィズス菌や乳酸菌の増殖を助けます。したがって、有益な菌を増やすためにプレバイオティクスを摂取することも非常に重要です。

シンバイオティクスとは

プロバイオティクスとプレバイオティクスが組み合わさったもので、代表的な食品に納豆があります。納豆には、プロバイオティクス の納豆菌、プレバイオティクスのオリゴ糖、水溶性食物繊維と、腸の調子を整える不溶性食物繊維が含まれ、優れたシンバイティクス食品と言えます。

 

プロバイオティクスとプレバイオティクス 、そして両方を含むシンバイオティクスを摂取することで、腸内細菌のバランスの改善、健康増進に繋がると考えられます。

食物繊維を手軽に摂取しよう

いつもの食事にプラス

昼食のお弁当にコンビニやスーパーで買えるお惣菜を1 品か2 品プラスするのはいかがでしょうか。
例えば、唐揚げ弁当に切干大根と豆の煮物をプラス。デザートにカットされたりんごを、飲み物に野菜ジュース、特にしっかりと食物繊維が含まれるものをプラス。これで、食物繊維量は約11.5g、一日の摂取目標のおよそ半分量を摂れることになります(18~64 歳:男性21g、女性18g)。

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文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年

手軽にプラスできるもの

他にも手軽にプラスできるものには、
●かぼちゃの煮物 ●きんぴらごぼう ●高野豆腐 ●うの花 ●ひじきの煮物 などがあります。
切り干し大根やうの花、ひじきなどのように乾物を使った料理は食物繊維を多く含むので、特におすすめです。

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文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年

 

いつもの食事から主食を変えることも効果的です。主食を白米から玄米あるいは雑穀米に変更すると、食物繊維量を大きく増やすことができます。

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文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年

デザート・間食に

デザートや間食には、カットりんごの他に下記のようなものがあります。
干し柿 ●干しプルーン ●ドライバナナ ●甘栗 などがあります。

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文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年

シンバイオティクスを手軽に

有益な菌と菌の餌が一緒になったシンバイオティクスを手軽に取る方法としては、下記が挙げられます。
●ぬか漬け ●野菜の味噌汁 ●フルーツヨーグルト ●甘酒

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文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年

 

いつもの食事に食物繊維の多い食品やシンバイオティクスをプラスして、腸内細菌のバランスを整え、よい排便を続けましょう。

動画説明

患者さんに意気揚々と腸内細菌のことを説明するミステリー好き看護師。しかし、患者さんから質問を投げかけられ、答えに窮してしまう。「乳酸菌飲料ってどうして毎日飲まないといけないの?」してその答えは。

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ワークシート

腸内環境と便の関係を考えてみましょう。以下のボタンからダウンロードしてご活用ください。
※ダウンロード版は A4 PDF となります。

回答用

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課題確認用

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