第6回:排便促進のポイント
排泄ケア(排便ケア)に取り組みませんか
ポイント
- 排便促進は人為的に排便させる方法
- 排便促進を行う際は、 便の状態をアセスメントし適した方法・手技を選択
- ただ強制的に出すのではなく、患者さんの排便反射や便意に合わせてできるだけタイミングよく、 自然に近い力を使って排便することが求められる
監修 日本コンチネンス協会 名誉会長/コンチネンスジャパン株式会社専務取締役 西村かおる先生
本コンテンツは 新排泄ケアワークブック(西村かおる先生著)の内容を引用しています。
Chapter1 洗浄便座による刺激・摘便
排便促進
便が直腸まで降りてきているのに自力で出せないときに、強制的、あるいは人為的に排便させます。その方法には洗浄便座による刺激、摘便、座薬、浣賜、洗腸が挙げられます。Chapter1で洗浄便座による刺激と摘便のポイントを、Chapter2で座薬と浣賜のポイントをご紹介します。
洗浄便座による剌激のポイント
肛門を洗浄便座の水流で刺激すると、便意を強くすると同時に排便反射を起こして肛門を開きます。 また、直腸内に水を入れることで水と一緒に便が出やすくなります。このとき、ある程度の水圧がないと効果が出にくくなります。
大きな便塊が直腸に詰まっている場合は、 洗浄便座の刺激だけでは出すことが困難なので、 摘便や浣腸が必要となります。
摘便の手順
①必要物品の準備
まず必要物品を準備します。脊椎損傷で血圧が不安定な人、普段から血圧が高い人は摘便で急に血圧が上昇する危険があるので、血圧管理をしながら行い、知覚を麻痺させる表面麻酔のゼリーを使用します。
②ご本人に説明
理解がある人には、摘便を行うことを説明します。 摘便では、患者さんが不安を訴えることがよくあります。不安を取り除くように説明・声かけを行います。
例 患者さん「苦しかったり、痛かったりしないですか?」 看護師「苦しくも、痛くもないです。もし痛かったらすぐに仰ってください。痛かったら、すぐやめて方法を変えますから」 |
③腸の動きを確認
腹部を聴診し、 腸の動きを確認します。
④左側臥位に
・患者さんに着衣をおろして左側臥位になってもらいます。
・バスタオルなどでお尻以外を覆い、 不要な露出を避けます。
・周囲の汚染を防止するため、 処置シーツで布団をカバーして、さらに吸水シーツをお尻の下に敷きます。
⑤肛門括約筋をタッピング・指を滑り込ませる
・潤滑剤をペーパータオルなどに出し、指にたっぷりつけます。
・患者さんにゆっくり呼吸をするよう声をかけながら、 肛門に潤滑剤を塗り、 少しタッピングします。
・タッピングすると肛門は一旦ぎゅっと閉まり、 次の瞬問に弛緩するので、 その時に指を入れます。
・この時、 痛くないかを患者さんに確認します。 痛くなければ緊張が取れています。 このように緊張が取れている時に指を入れることがポイントです。
・便の状態をアセスメントします。 便性を確認し、便がどの位置にあるかを確認します。
⑥指をリードにして便を出す
指をリードとして、 指の背や腹に乗せるようにして便を出します。
⑦直腸内の便の有無を確認
便を出した後、 直腸診を行い、直腸内に便が残っていないことを確認します。
⑧腸の動きを確認
腹部を聴診し、 腸の動きがおさまっていること、 腸に便が残っていないことを確認します。
⑨肛門周囲を清潔にする
肛門周囲を洗浄し、押し拭きして清潔になったことを確認します。
摘便のポイント
上記の手順『⑥指をリードにして便を出す』の時のポイントを便性別にご紹介します。
ブリストルスケール1:硬い便の場合
- まずは、 どんな便がどんな形・位置にあるかを指で探ってアセスメントします。
- 便に指を沿わせて、 指をリ ー ドとして、 指に乗せて引っ張り出します。
- 無理矢理出すのではなく、 排便反射を使いながら出していきます。
- 台形の便の湯合は、 台形の底辺が肛門に向いていると出しにくいので、 上辺を肛門に向けるように腸壁と指に引っ掛けながら方向を変えて出しやすくします。
- かき混ぜるのではなく指に乗せて引っ張り出すイメージです。
模擬便と透明模型による実演
模擬便と臀部模型による実演
ブリストルスケール2~3:やや硬い便の場合
- 指を入れて便を確認します。
- ぎっしりと話まっている場合、割れ目を探し、割れ目に指を入れて崩して出します。まとめて出そうとすると離しい場合も、割れ目があれば崩して出しやすくします。
- 便を回して、向きを変え、指をリードとして指に乗せて出していきます。
模擬便と透明模型による実演
模擬便と臀部模型による実演
ブリストルスケール6 :軟便の場合
- 指を入れて便性を確認します。
- 尾骨側に肛門を開きながら指を入れます。
- 指の背中に乗せるようにして出していきます。ぐるぐるとかき混ぜると便が逃げてしまうので、指に乗せる動きをします。
- 腹部の左側を押すか、患者さんにいきんでもらうと、上からの圧で便が出やすくなります。
模擬便と透明模型による実演
模擬便と臀部模型による実演
監修 西村先生のお話 「摘便は、痔や肛門狭窄が強くない限り、また、できるだけ粘膜を触らないようにすれば、出血も痛みもなく、排便させることができます。 ご本人の便意に合わせてできるだけタイミングよく行うことが求められます。」 |
動画説明
前に進むことができなくなってしまったミステリー好き看護師。うちひしがれるその背後からあの人の声が聞こえて・・・。今回は、摘便の手技のポイントを本動画ご監修の西村かおる先生による実際の手技でご紹介します。
ワークシート
洗浄便座の刺激と摘便のポイントを考えてみましょう。
以下のボタンからダウンロードしてご活用ください。
※ダウンロード版はA4 PDFとなります。
※ご利用中のパソコンの設定により、該当ページに遷移されないことがございます。
回答用
Chapter2 座薬・浣腸
座薬について
座薬は、炭酸ガスを発生して直腸壁を刺激し、腸の蠕動運動を高めたり、水分吸収を抑制し内容量を増加させたりして、直腸を刺激して便の排出を誘発する方法です。アセスメントの際は、硬い便がぎっしり詰まっていないかを確認し、詰まっている場合は摘便を行います。
座薬の手順とポイント
①必要物品の準備
必要物品を準備します。患者さんが自分で座薬を挿入できる場合は、ご本人に挿入してもらいます。
ご本人が挿入できない場合は、看護師が挿入します。ここでは、看護師が挿入する場合のポイントを解説していきます。
②ご本人に説明
理解がある人には、座薬の挿入を行うことを説明します。 挿入後、座薬の効果が出るまで10分程度時間がかかることを説明します。
③腸の動きを確認
腹部を聴診し、 腸の動きを確認します。
④左側臥位に
患者さんに着衣をおろして左側臥位になってもらいます。
⑤便の状態をアセスメント
・潤滑剤をペーパータオルなどに出します。座薬を出し、潤滑剤を十分につけておきます。指にもたっぷりつけます。
・患者さんにゆっくり呼吸をするよう声をかけながら、 肛門に潤滑剤を塗り、 少しタッピングします。
・肛門は一旦ぎゅっと閉まり、 次の瞬間に弛緩するので、 その時に指を入れます。
・この時、 痛くないかを患者さんに確認するのは摘便の時と同じです。
・便の状態をアセスメントします。 どんな便がどこにあるか、 どこに空間があるかを確認します。
⑥座薬の挿入
潤滑剤をつけた座薬を手に取って、 患者さんに「今から座薬を入れますね』と声をかけ、 肛門を軽くタッピングして弛緩した時に、 スルッと入れます。
この時、 便に突っ込むのではなく、 アセスメントで見つけた空間に 入れます。 また、 なるべく奥に入れます。
指を出した後は、 肛門が閉まっていることを確認します。
模擬便と透明模型による実演
⑦トイレ・差し込み便器で排便
便意が強くなったら、 トイレあるいは、 差し込み便器で出してもらいます。
便が出たこと、残便感がないかを確認し、 肛門を拭いて終了します。
浣腸について
便秘に用いる浣腸には下記があります。
- グリセリン浣腸:腸管壁から水分を奪って腸管壁を刺激するとともに、 便を軟化させ、 排便を促進
- 微温湯浣腸:お湯を注入することで腸の蠕動運動を促進
- 生理食塩水浣腸:腸の蠕動運動を促進させたり、 洗浄に用いる
- 石鹸浣腸:結腸を刺激し、便の乳化作用と腸の洗浄作用をもたらす
浣腸は急激な血圧低下、 直腸穿孔を起こす可能性があるため、慎重に行う必要があります。
また、アセスメントの際、硬い便がぎっしりと詰まっていないかどうかを確認することは座薬のときと同様です。 便がぎっしりと詰まってカテーテルが挿入できない場合は摘便を行います。
浣腸の手順とポイント
①必要物品の準備
必要物品を準偏します。微温湯浣腸でも効果が得られる場合は、微温湯をシリンジで注入します。
微温湯浣腸のポイント
30cc~50ccのシリンジを使用します。
通常は先の短い注射用シリンジを使用しますが、ギリギリまで便が詰まっている、あるいは肛門口が長くてなかなか微温湯が入らない場合は、先の長いカテーテル用シリンジに変えます。
また、 微温湯で排便がなかった場合は、グリセリン浣腸に変えます。
以下、グリセリン浣腸を例に手順とポイントを解説します。 |
②ご本人に説明
理解がある人には、浣腸を行うことを説明します。血圧が下がる可能性があるため、 血圧を管理することも説明します。
③腸の動きを確認
腹部を聴診し、 腸の動きを確認します。
④左側臥位に
・患者さんに着衣をおろして左側臥位になってもらいます。
・パスタオルなどでお尻以外を覆い、 不要な霞出を避けます。
・周囲の汚染を防止するため、 処置シーツで布団をカバーして、さらに吸水シーツをお尻の下に敷きます。
・準備を終えたら、 患者さんにゆっくりと深く呼吸をしてもらい、 腹部、肛門の緊張を解きます。
【注意】浣腸は立位での実施はしません。 立位の場合、 カテーテルの先端が直腸璧に当たりやすく、 直腸穿孔を起こすリスクが非常に高くなります。 また、肛門の確認がしにくいため、 カテーテルの挿入が目視できない危険もあります。
⑤カテーテル準備
・潤滑剤をペーパータオルなどに多めに出します。
・温めておいたグリセリン浣腸を取り出し、 カテーテルの挿入の長さを決めます。通常は5~7cmとされていますが、 患者さんの肛門口の長さや、便のつまり具合によって判断します。
・潤滑剤をカテーテルに十分つけます。
⑥便の状態をアセスメント
・患者さんにゆっくり呼吸をするよう声をかけながら、 肛門に潤滑剤を塗り、 少しタッピングします。
・肛門は一旦ぎゅっと閉まり、 次の瞬間に弛緩するので、 その時に指を入れます。
・この時、 痛くないかを患者さんに確認するのは摘便・座薬の時と同じです。
・便の状態をアセスメントします。カテーテルを入れる空間の位置などを確認します。
⑦カテーテルを挿入
・患者さんに挿入することを伝えます。
・肛門をタッピングし、 肛門が開いていることを確認して、 カテーテルを腸の形に沿って尾骨の方向へゆっくりと入れていきます。
⑧グリセリンを注入
・グリセリンを少しずつ注入します。
〈注入の途中で反応があった場合〉
・途中で患者さんが便意を訴える、 カテーテルの周囲から液や便が漏れた湯合は、カテーテルを抜いて排便に移ります。
〈反応がない場合〉
・患者さんにお腹の具合を確認しながら、 ゆっくりと少しずつグリセリンを全部注入します。
⑨カテーテルを抜く
・カテーテルをゆっくりと抜きます。
・この時、 カテーテルの先に便がついていれば、 どんな便がついているのかを確認します。
〈反応がない場合〉
・一旦お尻を推し拭きします.
・腹部を聴診し、便が降りてきているかを確認します。 またS状結腸のあたりを触診し、 そこにあった便が降りているかどうかを確認します。
⑩排便
患者さんが便意を訴えたら、 トイレ・差し込み便器で排便するか、 おむつに便をとります。
どうしても患者さん自身で出せない場合は、肛門をタッピングして指を挿入し、 肛門を尾骨側に開いていきんでもらいます。 あるいは、 腹部の左側を押すと、 便が出やすくなります。
ガスと便が一緒に出てくる場合は飛び散ることがあるため、 吸水シーツや処置シーツでカバーしておきます。
⑪腸の動きを確認
排便後、 腹部を聴診します。 脇が動いている場合は、 まだ便が残っていて排便があるため、 しばらく待ちます。
腸の動きがおさまっていれば、 排便は終了です。
⑫肛門周囲を清潔にする
肛門周囲を洗浄し、押し拭きして清潔になったことを確認します。
監修 西村先生のお話 「排便を他者に任せることは羞恥心と心の痛みを伴います。便を出すことは大切ですが、排便ケアを受けることで、心地よさとご自分の尊厳を保つことができたと感じていただける配慮とテクニックが必要です。 |
動画説明
トイレに行けるのに、浣腸の後は差し込み便器を使いたがる患者さん。その原因はどこに・・?
Chapter2 では、座薬と浣腸の手技のポイントを本動画ご監修の西村かおる先生による実際の手技でご紹介します。
ワークシート
座薬と浣腸のポイントを挙げてみましょう。
以下からダウンロードしてご活用ください。
※ダウンロード版はA4 PDFとなります。
※ご利用中のパソコンの設定により、該当ページに遷移されないことがございます。